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明日晴れたら〜ろくでなしの恋 10 |
「食べ終わった?」 足の下で蠢いている頭を今度は渾身の力でひっぺがす。 「なんのつもりだよ」 「こういうつもり」 へへ、といつものように笑う顔がすでに上気している。もう一度降りていこうとする頭を掴み、脇に手を入れ持ち上げる。すとん、とまた克也の膝の間に座らされた智の顎を掴んだ。近づく克也の唇を、口を開いて迎えてくる。初めから舌を絡め合い、吸い合った。 「……キスは駄目なんじゃなかったのか?」 一旦離してそう聞くと、回した腕で引き寄せられ、智の方から合わさってきた。 「……ん、ん」 クチクチと粘液の混ざり合う音に混じり、智が声を漏らした。 「マリコのために取っとくって言ってただろうが」 何度も合わさり、舌を這わせ、中に侵入しながら聞いた。 「マリコちゃんは……旅に出た」 吐息を漏らすようにして智が答えた。 「は?」 一旦顔を離して聞き返すと、智は潤んだ顔のまま「マリコちゃんは遠い所へ旅立ってしまいましたとさ」と、昔話のように言った。 「遠い所って、死んだのか?」 「死んでないと思うよ。一昨日も見かけたって人いたし。俺が会えないだけで」 「それは……」 また振られたということか。克也の同情の籠もった眼差しに「違うんだ」と首を振っている。 「マリコちゃんはやむにやまれぬ事情で旅に出たんだ」 「だって一昨日見た人がいたんだろ」 「他人の空似だ」 たぶんそのとき、マリコは誰かと一緒だったのだろうと見当が付いた。恐らくマリコの彼氏か、それとも新しいカモとでも歩いていたのだろう。 「凝りねえな」 憤然とマリコの旅行説を唱えている智の腕には自称高級時計が巻かれている。ブランド名は克也でも知っているものだが、それがどれぐらい精巧でおしゃれで凄いものなのか、本物を見たことがないから判断が付かない。それでももしそれが本物なら、智が支払った金額ではとても買えない代物だということぐらいは知っていた。例え激安特価だったとしてもだ。 「なあかっちゃん、俺ってなんでこんな目にばっかり遭うんだろう」 それはお前が馬鹿だからだ。という言葉は可哀想なので呑み込んだ。 「俺、一生懸命やってるつもりなんだけど」 それは知っている。ただ、その一生懸命さが見当外れなのだ。 「俺もう一生恋なんかしないよ」 それも何度も聞いた。そして言った側から前言撤回するのも何度も見ている。 「もう誰も信用しないんだ。俺みたいのは恋とかしちゃいけないんだよ、な、かっちゃん」 「まあ、そんなこともねえんじゃねえか?」 「だって! なんでこんな振られてばっかりなんだよじゃあ!」 それはお前が……話が堂々巡りになってしまう。 「馬鹿だし考えなしだし騙されるし流されやすいし」 分かってんじゃねえか。 「誰も俺のことを真剣に好きになってくれる人なんかいないんだ」 「そうでもねえんじゃねえか。ほら、お前だっていいとこあるだろ」 「どこが?」 面と向って聞かれ、言葉に詰まる。見た目だって悪くないし、性格も悪くない。捻くれているより余程いいといえるし可愛げがある。 「なあ、かっちゃん、俺のどこがいいところ?」 しかし、そんなことは口が裂けても言えない。 「やっぱり。ないんだ」 智が大袈裟に嘆いてその辺にバッタリと倒れ込んだ。悲観に暮れている智を見下ろしながら煙草に火を付けた。さんざん落ち込んだあと、ケロッとして次にいくことも、もう了承済みだ。その単純さも美点といえばそういえなくもない。 それとも今回のは立ち直れないほどのショックだったのか。いずれにせよ、克也は慰める言葉を持たない。そんなことはやったこともないし、だいたいできる性格ではない。 それに、やさしく慰めようと、厳しく叱りつけようと、結局こいつは一人で立ち直るのだ。次の恋を見つけて。 「風呂入ってくる」 俯せに倒れたままの背中に声を掛けた。返事がないから放っておいて、シャワーを浴びにいく。 髪の毛を洗っているときに、案の定、後ろから手が伸びてきた。 「髪流すから、ちょっと待ってろ」 腹筋を撫でまわしている智にそう言って、頭からシャワーをかぶった。向かい合って立った智の顎を掴み、噛みつくようなキスをした。 口腔を深く犯しながら智の下半身に手を伸ばす。すでに勃ち上がり、完全に上を向いているモノを軽く握って上下に摩ると、口を塞がれたままの智がくぐもった声を上げ、嫌々をするように首を振った。逃げようとする唇を追いかけ、また塞ぐ。 「……あ、ふぁ、ん、ん」 苦しそうに喘いでいる唇から離れ、今度は耳を含んだ。耳殻に沿って這わせた舌を中に侵入させる。そうしながら耳全体を咥えこみ、グジュグジュと音を立てて吸ってやると、智が子犬のような声を上げた。 「……ひぁ……ぁあああぅ、んんぅ……」 震える体を撫で、戦慄く唇をまた塞ぎ、すでに爆発寸前のペニスを扱く。克也の手の動きに合わせ、智の腰が揺れる。手の中のものを行き来させ、絶頂に向いそうになるのをはぐらかすように、握っていた手を離し、今度は指先でつう、と撫で上げた。 「あ、あ、かっ……ちゃぁ………ん」 甘えるような智の声が聞え、克也の意地悪な所業に鼻を鳴らして抗議している。もう一度口づけをしてから、打ち付ける湯で温まったタイルの床に胡座をかいた。 |
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