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仰げば蒼し
22(完)
「あ……ん、あっ、あっ」
 首にしがみついて奥を探る。上下する動きを今度は円を描くように変えると、新しい官能が生まれた。
「あんっ、え、んど、くん……っ、そこっ、あっ、ぁっ、いいっ」
「……ここ?」
 反射神経のいい遠藤君が俺の反応にすばやく応えてくれる。ぐいっと腰を持ち上げられて、俺が動きやすいように支えながら、いい場所を抉られてかき回されたら、よすぎておかしくなりそうだった。顎が上がり、開きっぱなしの唇から嬌声が迸る。
「はぁ……んっ、いいっ……あっ、あぁ!」
 密着した俺の屹立は遠藤君の腹に擦られて、しとどに濡れた自分の蜜にまみれてもみくちゃにされている。
「あ、んん! や……声、出……ちゃう」
「充……」
 体ごと抱きかかえられ、遠藤君の肩に強く唇を押し付ける。
「噛んで……いいから」
 いやだと首を振ったら激しく突き上げられて思わずしがみついた。
「ああっ!……んんぅ」
 ほら、ともう一度促され堪えきれずに分厚い肩に歯を立てた。
「っ……ん」
 痛みに呻きながら、それでも動きを止めない。
 遠藤君の肩に噛みついたまま、揺らされる動きに合わせ、腰を上下させた。
 もうもたない。こみ上げる絶頂感で、唇を強く押し付けたまま訴える。
「いくっ、いくっ、あぁ、あぁ、え……んどう、くん」
 いっそう激しく突き上げられて、ついには唇を離し、大きく反り返りながら遠藤君の腹に精を吐いた。突き上げる動きに呼応するように断続的に吐き出される。俺が全部吐き出すまで遠藤君が動きを繰り返す。反り返った背中を掌でやさしく撫で上げられるとまた声が上がる。
「ああ……あ……」
 震えが止まらない。上向いたままの眦から涙が零れ落ちた。
 はっ、はっ、と息を吐きながら激情が収まるのを待った。流れ落ちた涙をそっと拭われた。
「……声、我慢出来なかった」
 結局いつもと一緒、というか、いつもに増して声が出てしまった気がする。
 俺って本当にこらえ性がない。
 反省しながらそう言うと、遠藤君はしゃあしゃあと「大丈夫じゃないですか?」と根拠のない慰めを言ってきた。
 それに俺だけこんなに早くイッてしまい、遠藤君の楽しむ暇がなかったんじゃないかとまた反省する。
「俺、早すぎ?」
 ごめんねとキスをしたら、笑って「どういたしまして」と言われた。
「じゃ、次、俺の番」
 歌うようにそう言うと「よっと」と凄い力で体を持ち上げられて、繋がったまま床に寝かされた。
「うわっ」
「俺も、たぶん……すぐだから」
 髪を梳かれて、深い口づけを受ける。
「ん……」
 静かに動き出した。遠藤君はどんな時も俺の顔を見つめる。そんなに見られるほど大した顔でもないんだけどなと苦笑して、でも遠藤君がこの顔が好きならそれでいいやと思った。
 遠藤君の腹は俺の吐き出した精液で濡れたままだ。でもそんなことは全然構わないみたいだ。俺も気にならなかった。
 あとで二人でシャワーを浴びよう。今日は俺が洗ってあげようかなと考えて、自然と笑みが零れる。
 それから、これからのことを相談しよう。
 引っ越しはいつがいい? と言ったら、遠藤君はなんて言うだろう。
 その時の彼の笑顔を想像して、緩んだ口元のまま見つめ返した。
 大切な人が俺のことも大切だと言ってくれる。
 出会えてよかったと、俺がいることで不安がなくなるのだと言ってくれている。
 それで充分だと思った。これ以上何を怖がることがあるだろう。
 強くて、優しくて、時々子供みたいになる、この上もなく愛しい人を見つめ続けた。
 遠藤君もそんな俺を見つめている。
「充……愛してる」
 遠藤君がそっと言った。まるで秘密を打ち明けるみたいに密やかに、囁くような声で。
 アイシテル アイシテル
 揺れながら囁かれる言葉が揺り籠のように俺の中で揺らめく。
 アイシテル アイシテル
 初めて覚えた言葉のように何度も心の中で繰り返す。
 両手を広げて遠藤君を抱く。俺も……と応えようとした唇を、わかっているよ、というようにやさしく塞がれた。

 

 完全な秋晴れの下。
 ダイ君とナオキ君が抱き合って泣いている。
 ヨシ君が遠藤君に抱き付いてこれも大声を上げて泣いている。
 俺は観客席でダイ君のお父さんと抱き合って、やはり泣いていた。
 ヨシ君を首にぶら下げたまま、笑顔の遠藤君が空を見上げた。
 野球を失った日、最後に見た空は青くなかったと、遠藤君は言っていた。
 空っぽになったと言っていた胸に、今日またひとつ、何かが埋まっていく。
 弱小ファイターズの初勝利の日。
 負けたチームの方が唖然とするほどの喜びようだった。
 その日の空はどこまでも高く、誰の目にも蒼く、清んだ色をしていた。



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