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エイジ My Love
10

 帰り道。女子二人と別れて、光一といつもの道を歩く。
「寄ってく?」
 光一の誘いに一瞬考え、「あー、今日はやめとく」と答えた。
「腹減ったし。家帰る」
「だぁからさっきファミレス寄ったときに食えばよかったじゃん」
「あんときは腹が減ってなかったの。今は減ってんの」
 なんだよぉ、と光一がいつものように嘆いた。
「最近エイジくん冷たくない?」
「変わんねえよ?」
「そぉーお?」
 前を向いて歩いている俺の顔を覗きながら光一が言ってきた。
「家に全然寄ってくんねえし」
「図書館行ってるからな」
「手も繋いでくんねーし」
「もとから繋ぐ習慣はない!」
 握ってこようとする手を邪険にはね除けると、光一がまた「なんだよぉ」と、情けない声を出した。
「彼女できたからってちょっと冷たくない?」
「まだ彼女じゃねえし」
「ほら、今『まだ』って言った。明日には彼女になってんだろ。酷いよ。俺という者がありながらっ! 俺とのことは遊びだったんだな!」
「声でかいし言ってることおかしいし。なんだよ俺という者とか」
 遊びとか言うが、俺のほうが光一に弄ばれたような感覚なのに、なんでこいつが騒ぐんだよと憮然とした。
「だって二人で遊びに行く約束してたじゃん」
「あー、まあ、なあ」
「それって付き合うってことじゃん」
「……やっぱりそうなると思う?」
 この期に及んで後悔している俺だった。
「そりゃなるだろ」
「あー、失敗したなあ」
「おまえ、そういう不誠実なのはよくないと思うぞ」
 どっちがだと俺は言いたい。
「二宮さん、割といい感じだし」
 嘆くような、諦めたような、サバサバとした声で光一が言った。
「そうか? いい感じだと思うか?」
 俺の問いに光一は「うーん」と考え、それからほんのりと笑った。
「分かんねえけど。うーん、似合わないことはない、こともない、こともない、かなっ」
「どっちだよ」
「分かんないよ。エイジが決めることだろ?」
「あー、まあ、なあ」
「おまえ流され侍だからなあ。そこが心配」
「だよなあ。流されておまえと気持ちいいこととかしちゃってるし」
 俺の声に光一はかはっと笑い、何故かスキップを踏んだ。
「まあ、付き合ってみたらいいんじゃねえの? 貴重な高校生活なんだし」
「そうか」
「うん」
 まあ、そういうことなんだろう。
「じゃあまた明日」
 いつも別れる道に来ていた。
「マジで寄っていかね?」
「行かない。腹減ったから」
「ああ、じゃな」
 バイバイと手を振って光一が右の道を折れていった。
 気軽に誘い、俺が誘いに乗れば光一は手を出してくるのだろう。俺はそういうヤツだから。
 流されやすく、面倒くさがりで、断れない。光一は俺のそういうところを知っている。それに乗じてしつこく迫ってきたのも確かだ。
 俺のことが好きだと、情けない声を出して告白してきて、泣きそうな顔をして俺に抱きついてきたくせに、セックスまではしたくないという。
 俺という者がありながらなんて冗談で言ってきても、俺が目の前で二宮をデートに誘っても笑ってちゃんとしろと言う。誠実に接しろと、どの口が言うのかと思う。
 だいたい俺はホモでもねえし、光一のことだって親友だと思っていてそれ以上の感情はなかったのだ。
 俺は優柔不断な流され侍で、光一はこのとおりのお調子者だ。どっちもどっち。
「付き合ってみたらとか。馬鹿言ってんじゃねーよ」
 そして俺は、そんな光一の言動にたぶん、とても――傷ついたのだ。






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