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本日晴天 (空の蒼 番外編) |
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目を開けて、天井を見上げた。朝はまだ来ていないらしい。 片腕を上げて目覚ましを止めた。五時前だった。時計が鳴る前に目を覚ましてよかったと思う。静かに身体を動かし、脇の下にいるものを起こさないよう、そうっと腕を抜いた。 「……ん」 僅かに眉を寄せたギンちゃんが、俺の腕を追いかけるようにして寄ってきた。今動いたら駄目かと思い、じっとしたままギンちゃんが落ち着くのを待った。 なくなってしまった枕の代わりに自分の腕を頭の下に敷き、俺の胸に顔を埋めるようにして横になっている。猫みたいに丸くなっているところを見ると、苦しくはないみたいだ。 カーテンの向こうはまだ薄暗く、晴れか曇りかまでは分からないが、雨は降ってなさそうだし、寒くもないから、天気予報どおり晴れるなと思った。 布団に肘を付き、ギンちゃんの寝顔を覗く。顔にかかっている髪をかきあげてやりながら、顎の下に手を置いて熱を測る。汗もかいていないし、寝息も静かだ。 ここ最近の寒暖差で、ギンちゃんは少し体調を崩した。仕事を休むほどではないが、風邪をひきそうだと言って用心していた。背中には、気管支拡張用の小さなテープが貼ってある。昨日風呂から上がったときに俺が貼ってやったものだ。これを貼ると、呼吸が楽になるんだそうだ。 前よりかはだいぶ丈夫になったギンちゃんだけど、俺なんかに比べれば、全然弱い。「おまえと比べんな」ってギンちゃんは怒るけど、やっぱり気を遣う。 俺はギンちゃんのお世話係りだし、むしろ喜んで世話をしたいんだからそういうのは全然かまわない。どんどん俺に世話をされて、甘えてくればいいと思う。「甘えてやってんだ」ぐらいの気構えで丁度いいくらいだ。 俺がそんなだから、ギンちゃんも随分慣れてきて、変な遠慮だとか我慢はしなくなっている。具合が悪かったり、ちょっと弱っているときのギンちゃんは、俺にペタって甘えてくるから、それがすごく可愛いと思う。 今日だって、二人でくっついて寝るのはギンちゃんが寝にくいだろうと気を遣って、俺はベッドの下に布団を敷いて別々に寝ていたのに、気がついたら俺んところに潜り込んでいる。 なんだよもう! 可愛いじゃねえか。起きているときにそういうことをしてくれよって思うが、絶対にやらないのがギンちゃんでもあるから仕方がない。 俺が気を遣うことに、ギンちゃんが気を遣うことなんかはないんだ。丈夫なのが弱いのを庇うのは当たり前で、適材適所だし、俺はそれが嬉しいんだから、一石二鳥っていうか、弱肉強食? みたいな感じだ。 そのうちもっともっとギンちゃんが俺に甘えきり、「もうおまえなしでは生きていけない」とか言ってくれればいいんだけどなあって思う。俺なんかすでにギンちゃんなしでは生きていけないわけだから、ギンちゃんも素直になればいいと思う。こう、人が寝ているときにこっそり懐いてくるんじゃなくて、もっと大っぴらに愛情表現をしてくれないものか。せっかく愛し合ってる者同士が一緒に住んでんだからさあ。俺は行ってきますのキスとかすんげえ楽しみにしてんのに、なんで殴ってくるんだよ。たまにはしてくれたっていいじゃねえかと思うんだが。「帰ってくるまで寂しいよ、千明」「馬鹿だな、夕方には会えるじゃないか」「うん。でも……」「いい子で待ってな、ギンちゃん」「千明……」「ギンちゃん」「千明!」とか言って、チュッとかしたいわけよ。そんで帰ってきたら可愛いエプロンなんか付けて「おかえり。寂しかったよ、千明」「ギンちゃん」「千明!」「ギンちゃんっっ!」なんてまたチュウ、とかしてくれたりしたらどんだけ嬉しいかと……。 「おい、千明、うるせえぞ」 「んあっ」 声と一緒に頭に衝撃を受け、目を開けた。ギンちゃんが俺を見下ろしている。おっかない顔で。 「あれ?」 健やかに寝ているギンちゃんを俺が眺めていたはずなのに。 「やべ。二度寝しちまった」 「馬鹿が。人が安らかに寝てんのに隣でゴチャゴチャしゃべりやがって」 「俺、なんか言ってた?」 「ああ。うるさかった。焼肉定食だとか中華食いてえ、とか。嬉しそうに言ってたぞ」 「俺そんな夢見た覚えねえけどな」 「起きたとたんに忘れたんだろ? 馬鹿だから」 「ひでえな、ギンちゃん」 枕元に置いておいた、自分で止めてしまった時計を確かめると、うたた寝をしていた時間はほんの五分ぐらいだったようで、ホッとした。 「ギンちゃん、まだ寝てていいぞ」 「あー、んでも、もう目が覚めたから起きるよ」 布団から飛び出した俺の後ろで、ギンちゃんが伸びをしながら立ち上がった。 「具合どうだ?」 天井に向かって手を上げ、ゆっくりと身体を左右に揺らしているギンちゃんに聞いたら、「ああ。大分いい」と、機嫌の良い声が返ってきた。 「天気もよさそうだしな」 「そうか。よかった」 「祭り日和だな、千明」 年に一度、浅草で行われる三社祭に御輿の担ぎ手として毎年参加している。今日はその三日目だった。 |
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