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本日晴天
(空の蒼 番外編)


 祭装束に身を包み、準備を終えた俺の姿を、ギンちゃんが楽しそうに眺めている。
「やっぱりいいなあ。おまえ、毎日その格好していろ」
「えー、いいよ?」
「冗談だ」
「ギンちゃんがこれが好きだっていうんなら毎日これで出勤するし。惚れた?」
 返事の代わりに頭を叩かれた。
 ギンちゃん流の照れ隠しで、わざわざ言わなくても俺に惚れきっているのは知れていることなので、俺も大人しく叩かれてやった。
「じゃあ、いってくる」
「ああ。楽しんでこい」
「おうよ」
 玄関に立った俺をギンちゃんが見上げ、笑った。
「本当、気を付けろよ。怪我だけはすんな」
 うん、と返事をした俺の頭をギンちゃんが掴んで、引き寄せられた。
「なに? なに?」
 ギンちゃんの顔が近づいてくる。これは……もしかしてっ!
「ギンちゃんっ!」
 被さろうとした俺の鼻をギンちゃんが摘み、思いっきり捻られた。
「いてっ」
 目を開けた先には全開に笑ったギンちゃんの顔があった。
「ひっでえ。期待したじゃねえか!」
「おまえ寝言をはっきり言いすぎなんだよ」
「なんだよ。聞いてたんならしてくれよっ!」
「するか。ばーか」
 ケラケラと笑い、また頭を叩かれた。
「俺の念願の夢なんだぞ」
「小っせえ夢だな。NASAまで行った人間がよ」
「いいんだよ。夢見るのは自由だろ。俺にとってはロケット飛ばすよりも重大な野望なんだから」
「おお。話だけ聞いてるとなんか格好いいな」
「だろ? 惚れた?」
「うるせえよ。早く行け」
 毎朝こんな調子で一向に甘い雰囲気にならないのはどういうわけなんだろうか。
「まあ、野望のために頑張れ。いつかおまえの夢が叶うことを俺も願ってるよ」
 他人ごとのようなセリフに、それはギンちゃん次第なんだけどなって思うけど、今朝のギンちゃんはすごく機嫌が良さそうだから、今日のところは俺もそれで満足することにした。明日もギンちゃんがこうやって機嫌良くいてくれたらいいと思う。ずっと今みたいに笑ってくれたらいいと思う。
「そろそろ本気で行くよ」
「ああ。本気で行ってこい」
 笑顔のままのギンちゃんに見送られ、部屋を出た。
 外は晴天。絶好の祭り日和だ。





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