INDEX |
彼シャツ〜明るいほうへ番外編〜 |
1 |
休日の朝、一週間分の洗濯をする。 遠藤くんは今日も試合に行っている。少年野球チームの運営は、コーチも親も忙しい。毎日仕事に行き、休みの日も野球三昧だ。よく体力が保つなあと思うけど、昔からずっとそんな生活を送っていた遠藤くんには普通のことみたいだ。 野球から離れていた間、何をしていたのか思い出せないと言うくらい、今が充実しているらしい。とても良いことだと思う。 「充ともこうして一緒に暮らせるしね」なんて一言付け加えるのが、上手いなあというか、天然のプレイボーイというのか。 まったく、彼は俺を喜ばせるのが上手だ。 ベランダに洗濯物を干し、ざっと掃除をしたあと、軽く昼飯を取る。 遠藤くんと違って俺は庶民なので、休みの日は昼寝などをして身体を休めることにしている。激務という訳ではないが、体力は温存しておいたほうがいい。夜に備えて。 夕飯は作ることもあるし、遠藤くんが向こうで飲みに行ったりした日には、適当に済ますこともあるし、たまにチームに合流して一緒に飲むこともある。 今日、遠藤くんは遠征したあとの打ち上げがあると言っていたから、俺もビールを飲みながらストックしてあるカップ麺で済ませるつもりだ。 冷蔵庫の整理がてらの簡単な昼飯を取っているとき、さっきまで日が差していた空が怪しい色に変化してきた。 台風が近づいて来ているのはテレビで知っていたが、速度が遅く、こっちにくるのは明後日あたりだと聞いていた。直撃だ最大だと騒いでいても、結局関東から逸れたり、途中で勢力が弱まって消えてしまうこともしょっちゅうなので、あまり気にしていなかったが、今回のは予想外の速さで近づいているらしかった。 昼飯を済ませ、ベランダに出てみたら、確かに空気が湿っていた。朝は日が照っていたし、風も吹いていたから、洗濯物は完全に乾いていた。 雨が降る前に取り込んでおくかと、洗濯物を片付ける。ワイシャツはクリーニングだし、今日はシーツなどの大型の洗い物をしていなかった。靴下や下着なんかの小物とタオル類と、二人の部屋着をベランダから部屋へ放り込んだら、それでも部屋の真ん中に洗濯物の山ができた。 畳むのに世話のないタオル類から片付け、次に靴下とパンツを畳む。 そういえば、一緒に暮らしはじめの頃、洗濯物の畳み方が違っていて、それぞれのこだわりがあったりして、笑ったものだ。 俺は靴下を二枚重ねてクルクルって回して小さくして仕舞い、遠藤くんは三つに折った二枚のうちの片方の口に、くるむようにして入れる。くるんとひっくり返してボールのようになった靴下が、部屋のあちこちに転がっていた。 そうしておかないとすぐにバラバラになって自分のが分からなくなるからという理由だ。 寮生活が長かった遠藤くんは、持ち物全部にも名前を書かされていたそうだ。そうしないとやっぱりなくなってしまうから。 「充にも『遠藤私物』って書きたい」なんて……。 やだなあ、もう。書いてもいいよって一瞬思っちゃったじゃないか。 小物を片付け、次に部屋着を畳もうと山のひとつを取り上げた。 「……デカイなあ」 長袖のボタンシャツは五Lだった。手に取ったそれを目の前に広げてみる。 本人もデカイけど、着ているものも冗談みたいにデカかった。 ワイシャツを選ぶときも、遠藤くんは苦労する。大きい人用のシャツは多いけれど、遠藤くんは太っている訳ではなく、首が太いのだ。 量販店でも彼の首回りに合うものはまず見つからない。あっても種類が少なく、そして割高だ。だから出先なんかで偶然見つけると、喜んで大量に買っている。 |
novellist |