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彼シャツ〜明るいほうへ番外編〜


 そんなことを考えながら、遠藤君のシャツに袖を通してみる。ダボダボだった。短パンを履いているが、シャツの裾のほうが長くて、立ち上がるとちょっとしたミニスカート状態になった。
 そういえば、何処かの芸能人が彼女にさせたい格好で、素肌にワイシャツだと言っていた。袖から指だけがちょこんと出ていて、男物のシャツから覗く素足がいいのだとか、恥ずかしそうに裾を伸ばす仕草がいいのだと、トーク番組で盛り上がっていた。
「そんなものなのかな?」
 シャツの裾を引っ張ってみるが、俺は普段から男物のシャツを着ているのでピンとこない。
 着ている分には遠藤くんが俺に被さっているみたいで、なんだか楽しい気分だが。
 遠藤くんのシャツを着たまま洗濯物を畳んだ。部屋着を重ね、今ではすっかり遠藤流の畳み方になった靴下と一緒にタンスに仕舞い、タオルを洗面所に持っていった。
「ただいま」
 洗面所から出てきたところへ、遠藤くんが帰ってきた。
「あれ? 早いね」
 まだ午後が始まったばかりの時間帯だ。打ち上げにも参加するから帰るのは夜だと聞いていたのに。
「どうしたの? 怪我?」
 真っ先に浮かんだのはそれだった。
「いや。天候が、さ。台風が近づいてるからって」
「ああ。そうか。もう降ってきた?」
「まだ。でもすぐ降りそう。風が凄い」
 そうか。じゃあ洗濯物を早めに取り込んでおいてよかったと思っている俺を、遠藤くんが眺めている。
 すごく嬉しそうに。
 遠藤くんの視線を感じて、あっ、と思った。
「や、違う。ちょっと、どうかなって……思って」
 違うもなにも、なにがどうなのか。言い訳が全然言い訳になっていない俺を、遠藤くんが笑って眺めている。
「可愛いですね」
「そんなはずはないだろう」
 鞄を下ろした遠藤くんが俺のシャツの裾を捲ってきた。
「なんだ。履いてる」
 下に履いている短パンを見て、遠藤君がガッカリした声を出した。
「あ、当たり前だろ」
「じゃあ脱いで」
「なに言ってんのっ?」
 ねえねえと裾を引っ張ってくるのを止めなさいよと抵抗する。
「見たい」
「やだよ」
「ちょっとだけ。お願い」
 ね、と小首を傾げるようにして、遠藤君が笑って言った。
 おねだりモードが発令している。
 ……これに弱いんだよなあ。
 もう。と言いながらもリビングに戻り、ソファに腰掛けて期待の目でこっちを見ている遠藤くんの前で短パンを脱ぐ。
 ああ、俺ってば……。
「……パンツも?」
 お願いされた以上の要望に応えようとする俺に、遠藤くんはパッと顔を輝かせ、それからちょっと考えてから、「パンツはそのまま」と言った。
 そうなんだ。なんかこだわりがあるのかな、とそれも遠藤くんのリクエスト通りにする。
「脱ぎましたけど」
「こっち来て」
 言われたとおりに側に行く。両腕を広げた遠藤くんに迎えられるようにして前に立った。
「こうやってみると、やっぱりサイズが全然違うなあ」
「そうなんだよ。ダボダボ。笑えるね」
 そう言ってシャツの裾を伸ばしている俺の腰に、遠藤くんが巻き付いてきた。
 自分のシャツの腹の部分に顔を埋めて、クンクン匂いを嗅いでいる。
「ほら。もういいだろ。遠藤くん、風呂入ってきなよ」
 ユニフォームを着たまま俺に巻き付いている遠藤くんに言うが、「んー、もうちょっと」と言いながら、なかなか離れてくれない。
「台風接近に感謝。こんなサービスしてもらえるなんて」
「サービスとか。本当、ちょっと着てみただけだよ。デカイなあ、って思って。いつもやってるわけじゃないから」
 俺の言い訳に、遠藤くんは「うん」と言って笑った。
「本当だから」
「うん」
「ほら。もう離れなさいよ」
「うん」
 俺が何を言っても「うん」と返事をし、その割に全然言うことを聞かない遠藤くんだった。



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