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ふたりの休日〜明るいほうへ番外編〜 1 |
シャワーから戻ってきたら、遠藤くんがテレビの前で胡座をかいていた。ユニフォームを着たまま、画面を熱心に眺めている。 「今日の試合?」 「うん」 画面には午前中に行われたファイターズの練習試合の様子が映し出されていた。 少年野球チームのコーチをやっている遠藤くんは、毎週末練習や試合に参加していて忙しい。俺もときどきは連れて行ってもらっているが、毎回一緒に出掛けるのもどうかと思い、今日は部屋で留守番をしていた。遠藤くんを手伝って子どもたちの面倒を見るのは楽しく、メキメキと成長していく彼らの姿は逞しい。 なによりコーチのユニフォーム姿が垂涎ものだ。あの姿で「ボール取ってこい!」なんて命令されたら川に飛び込んででも取りに行きたい。 「上手になったなあ」 バッターボックスに立っているヨシ君は、身体の芯がぶれることもなく真っ直ぐに振り下ろし、カンッという爽快な音を立ててボールを打ち返していた。彼は今やチームには欠かせない存在だ。 「これ、遠藤くんが撮ったの?」 「いや、ダイの兄貴」 「ああ。来てたんだ」 大学生だというダイ君のお兄さんは、高校生のときからときどき練習に来てくれていた。本人はバスケットをやっていると言っていたが、運動全般が得意らしい。今は親元から離れ、それでもこうしてときどき練習などに付き合ってくれる。背が高くて明るい、好青年だ。 「お兄さんもあんなガタイだし、ダイ君もきっと大きくなるね」 ヨシ君が塁に出たあとにバッターボックスに立ったダイ君は、相変わらず勝ち気に充ちて、バットをブンブン振っている。 「遠藤くんが全然映ってないね」 「そりゃあ試合を撮ってるから。俺を撮ってもしょうがないでしょう」 そうなんだけど、残念だ。攻守交代のときとか、ちらっとでも写してくれるぐらいのサービスが欲しいものだが、そういうときには何故か別の子ばかりが映っている。眼鏡を掛けた大人しそうな男の子は、ダイ君のお兄さんの友達なのだろう。画面の後ろで試合やメンバーの説明を喜々として語っているお兄さんの声が聞こえる。 試合は三対二でファイターズが勝利した。初勝利から少しずつ勝ちを増やし、選手もますます野球の楽しさにのめり込んでいる。 テレビとビデオカメラからケーブルを抜き取った遠藤くんが立ち上がった。 「俺も風呂入る」 練習試合から帰ってきた遠藤くんは、俺がシャワーを使っていたために、ビデオを見ながら待っていたみたいだ。 このビデオカメラは、遠藤くんが選手たちのフォームや試合の様子を撮影するために購入したものだ。最近のビデオカメラはとても小さく、性能も良い。編集されて焼かれたDVDが着々と増え並んでいる、これからも増えていくことだろう。 テーブルにビデオカメラを置いた遠藤くんが歩きながらボタンを外している。そして俺は、置かれたそれを何気なく手にして、遠藤くんに向けてみた。 「……ちょっと、なに撮ってんですか」 カメラを向けられた遠藤くんが白い歯を見せて笑った。 「これ、全然手ブレしないね」 風呂場に向かいながらユニフォームの上を脱いだ。ピッタリとしたアンダーシャツの下で、隆起した肩胛骨が動いている。とても良い光景だ。 脱衣所に入った遠藤くんがズボンのベルトに手を掛けたまま、こっちを睨んだ。 |
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