INDEX
ふたりの休日〜明るいほうへ番外編〜


「充」
 窘めるような声を出しているが、目が笑っている。鍛え上げられた強靱な肉体と、悪戯っぽい表情のコントラストが絶妙だと思う。
 その笑顔から首筋、胸、腹、足元へとカメラをパンさせる。いつも見ている光景なのに、なんでか新鮮なものに見えるから不思議だ。
 遠藤くんはズボンに手を掛けたまま止まっている。
 早く下も脱いで欲しい。固唾を呑んでそれを見守る。
「脱ぐよ」
 遠藤君の声に無意識に頷いてしまい、画面が上下した。
「ほら、あっち行って」
「えー、ここだけ、お願い」
「なに言ってんですか」
「遠藤くん、お願い」
 もう、と言いながら素直に脱いでいく遠藤くん。そういう素直なところが彼の美点だと思う。
 アンダーパンツ一枚になった遠藤くんがシャツを首から抜いた。
 ――素晴らしい。
 夢中でモニターに見入っている目の前が暗くなる。大きな手でレンズを覆われてしまった。
「ええー」
「ええー、じゃないでしょう。ここからは撮影禁止です」
 ほらほらと背中を向けさせられ、風呂場から追い出されてしまった。
 シャワーの水音が聞こえてきた。
 すごすごとリビングに戻り、置いてあったケーブルをカメラとテレビに差し込んで、早速鑑賞した。さっき遠藤くんがしていたように、床に胡座をかき、今し方撮ったばかりの、遠藤くんの生着替えを堪能する。
 彼の身体のことは隅々まで知っているけど、こうして観るとやはり美しい。ズボンを足から抜くために片足を上げている腿の筋肉なんか最高だと思う。ああ、腹筋が写せていない。風呂から上がってきたらお願いしてみようか。もう一度ユニフォームを着てもらい、いや、裸のままピッチングポーズとかとってほしい。コレクションにできそうだ。「遠藤コーチファンクラブ」に見せたらもの凄い高値で売れそう……絶対に見せないけど。
 再生を繰り返している後ろでパタンとドアが閉まる音がした。風呂から上がってきたらしい。
「……なにしてんすか」
 振り返りもしないで画面に見入る俺。
 床に置いてあるビデオを取り上げられ、画面を消されてしまった。
「あっ……」
 おもちゃを取り上げられた子どもみたいに両手が宙に浮く。
 一瞬暗くなったテレビ画面がパッと明るくなり、突然俺の顔が大写しになった。
「や、ちょっと遠藤くん!」
 慌てて声を出す俺の前で、ビデオカメラを持った遠藤くんが笑った。
「お返し」
 画面に俺の間抜けヅラが映っている。
「ちょ、止めなさいよ」
「脱いでみて」
「なに言ってんのっ?」
「だからお返しだって言ったでしょう。俺のを撮っておいて、自分は駄目だってことはないですよね?」
「いやいや、俺のは別段面白い画像にならないから。……ちょっ、遠藤くん!」
 逃げようとする腕を掴まれて、尻餅をついた上に乗っかられてしまった。



novellist