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うさちゃんと辰郎くん
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 右に左にと顔を傾ける辰郎くんに合わせて、ぎこちなく応えていたけど、だんだん苦しくなってきた。
 完全に乗っかられて重かったし、息継ぎの仕方が分からない。
 辰郎くんの背中に回していた腕を放して、されるまま力を抜いた。唇がずれた瞬間、息を吸い込もうと大きく口を開けたら、すかさず入り込まれて塞がれる。
 熱い舌が奥まで入り込んできて、強い力で吸われたら、ブチュって恥ずかしい音がした。
 その大きな音に、辰郎くんもびっくりしたみたいで、一旦顔を放して目が合った。
「すげー音がした」
「うん。ブチュっていった」
「吸いすぎた」
「うん。びっくりした」
 二人して笑い、今度は軽くチュッって吸い付いて、そうしながら辰郎くんの舌がまた僕の中に入り込んできた。
「……辰郎くん」
「ん?」
 ちゅ、ちゅ、ってわざと音を立ててキスをしてくる辰郎くんに「……重い」って訴えたら、慌てて身体をどかしてくれた。
「ごめん」
 僕の横に身体を横たえた辰郎くんが、照れたようにえへへ、って笑い、おでこをくっつけてくる。
「急がなきゃ、って思ったら焦った」
 小さく言い訳をしながら、辰郎くんが僕の頭をまた抱き込んでくる。
「格好悪ぃ……」
 反省をしている辰郎くんの胸は、ずっとバクバクと激しく鳴っている。
 学校でも部活でも目立つ存在の辰郎くんは、いつでもどこでも人気者で、凄くモテるのを知っていたから、僕は辰郎くんがこういうことに慣れているのかなってちょっと思っていた。
 だから、僕と同じに心臓をバクバクさせて、夢中になって、がっついたマルガリータみたいになっている辰郎くんが、ちょっと意外でで、とても可愛いと思った。
 さっき抱き締められて、言われたことを思いだして、辰郎くんの腕の中でニヤけてしまう。
 すげー好きだって。
 辰郎くん僕のことが、すげー好きなんだって。
 何回もその言葉を思い出して、本当にとても嬉しいご褒美をもらったなって思った。
「もうお母さん帰って来ちゃうよな」
「うん。たぶん。今頃自転車走らせてるかも」
「これ以上は……無理だよな」
「……うん」
 はー、って辰郎くんは溜息を吐いて、僕の背中を擦りながら「我慢、我慢」って言い聞かせている。
 僕も残念だけど、でも仕方がないよ。
 今日は勉強会なんだし。
 ちょっとは期待もあったけど、僕にとっては期待以上の褒美も貰えたわけだし。
 そろそろ帰ってくるかもと、身体を起こそうとする僕を引き留めて、辰郎くんは「もうちょっとだけ」と僕を布団に引きずり込んだ。
 ベッドの中で抱き合ったまま、外の気配に耳を澄ませ、時々キスをして、笑ったり、しゃべったりした。


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