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うさちゃんと辰郎くん
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 横になって向かい合って、ときどき辰郎くんの手が僕の頭を撫でて、その手が僕の輪郭をなぞったりする。
「修学旅行、楽しみだな」
「うん」
「夕飯のあとの自由時間、散歩行こうな」
「行けるかな」
「竹内が問題だ」
「うん」
 二人で時間を決めて、待ち合わせの相談をした。
 お互いにお土産を買おう、とか、布団は絶対にお隣同士な、って約束をして、二人とも初めて行く京都の話や、マルガリータが木刀を買う予定だとかいう話をした。
 カシャン、と門扉の開く音がして、母さんが帰ってきた。
「時間切れ」
 そう言って、二人してベッドから出ることにする。
 くしゃくしゃになった布団をかけ直していると、辰郎くんが僕の頭を撫でて、「髪、めちゃくちゃになってる」って言って、直してくれた。
 階下では母さんが買ってきた食材を冷蔵庫に仕舞っている。
 頭を直してくれた手に引き寄せられて、立ったままもう一度キスをされた。
 自分の部屋で、下に母さんがいるのに、こんなことをしている。
 勉強会っていう名目で、いや名目じゃないんだけど、好きな人を自分の部屋に連れ込んで、親がいない隙にあんなことをやっちゃうなんて。
 しかも僕、自分から「ご褒美ほしい」なんて言っちゃってたし。
 ここ半年の自分が信じられない。
 こんなことが自分に起こるなんて信じられない。
 何事もなかったようにテーブルにつき、教科書を広げたら、向かい側に座った辰郎くんがずりずりと隣に寄ってきた。
 みつばちのシャーペンを持って、いつか図書館でやったみたいに、僕の教科書の端っこに悪戯書きをしてきた。
 不格好な眼鏡のうさぎに、やっぱりダルマみたいなバンザイをしたミジンコがぴったりとくっついている絵を描いて、その上にハートマークを書いている。
 相変わらず下手くそな落書きに笑いながら、この先僕の教科書やノートには、この落書きがどんどん増えていくんだろうなと思った。


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