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月を見上げている
31

 すべてを飲みつくそうと、舌を這わせて舐めとる動きに合わせるように、樹の腰もゆるゆると上下する。出し尽くして萎えたはずのそれが、大輔の口の中でまた力を取り戻していった。
「も……やめて……」
 懇願する樹の声が濡れていて、大輔はようやく体を起こした。見上げる瞳からは、涙が流れていた。
「……よかったか?」
「だから……そういうことを、いちいち、聞くな」
 意地っ張りな唇はまだそんな可愛くないことを言いながら、それでも少し笑っていた。
 伸ばしてきた腕に素直に従って、ねだられるままにキスを落とした。清めるように、舌で隅々まで舐めとられる。樹の気の済むまでおとなしく応えていると、キスの合間にほんの小さな声で「うれしい」と囁かれた。
 廻された腕をゆっくりと解いて、そのまま自分の猛ったものへと連れて行く。驚いたように見上げた瞳に、自分もお前をこれほど欲しがっているのだと教えてやった。
 そっと握りこまれ、やさしく擦られて、快感に目を細めると、樹もまるで自分がされているような恍惚の表情を浮べて微笑んだ。
「折田さん……」
「ん?」
「……しい……」
 自ら体を開いて、小さくもう一度欲しいと、乞われた。一度解放されたはずの樹のペニスは力を完全に取り戻し、欲望の涙をこぼしながら震えていた。開いた足を自ら抱えあげて艶かしく大輔を誘ってくる。
 そのいやらしい体に嘗てないほどの興奮を覚え、大輔はごくりと喉を鳴らした。危うくそのまま爆発しそうになるのを、喉を詰めてやり過ごす。
「やべ……今のでイキそうになったじゃねえか」
「……だめだ。そんなの……許さない」
 どこまでも生意気で、この上なく愛しいこいつをどうしてやろうかと睨み下ろす。
 ちょっと待っていろと、ベッドに備え付けの引き出しからコンドームを取り出す。袋を破くのをじっと見つめている。何か考えているような表情に、にやっと笑い返す。
「言っとくけどな、使うの久しぶりだからな」
「……なんにも聞いてねえよ」
 そうかと、もう一度笑い返した。不貞腐れたような、いつも見ていた懐かしい表情を愛しむようにそっと撫でて、もう一度深い口づけをした。
「……いくぞ」
 後ろに宛がった自身を、少しずつ進めていく。充分に解され、濡らされた狭間はやわやわと締め付けるように蠢いている。
「ぃっ……」
 眉を寄せて苦痛に唇を噛みそうになるのを自ら息を吐いて力を抜こうとしている。優しくしてやりたいと思うのに、体はすでに暴走を始めて、奥へ奥へと突き進もうとする。
「くっ……
 最奥まで突き入れて、ようやく動きを止める。はあはあと、吐かれる息は、決して快楽の溜息ではない。
「つらいか? ごめんな……」
「……大丈夫。うれしい……」
 もう一度嬉しいと、一つになれて嬉しいと、今度ははっきりと言われ、愛しさが込み上げる。流れ落ちる涙に唇を這わして吸いとった。
 痛みが少しでも和らぐように、樹の雄を握りこんで擦ってやる。「あっ」と、仰け反る喉に口づけて、自分はじっとしたまま握った手だけをゆるゆると動かし続けた。
 やがて溜息は吐息に変わり、大輔の手の動きに合わせて樹の体が波打ち始めた。シーツを掴んでいた樹の腕が大輔を抱きかかえるようにして廻されてきて、縋るように肩に掴まった。
「う……ごいて、も、平気、だから……」
 覗いた瞳は切なげに揺れていて、大輔を煽る。見つめあったまま、その瞳に誘われるように律動を始めた。
 ゆっくりと繰り返される抽挿は、すぐに激しい攻めに変わっていった。角度を変えながら、深く、浅く、攻め立てていく。快感に呑み込まれそうになるのを必死に堪えながら、探るように腰を動かす。
 気持ちよくてすぐにも弾けそうだった。だけどまだイキたくない。もっと繋がっていたい。もっと、もっとよくしてやりたい。

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