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月を見上げている
30


「……あっ……あぁ……んぅ……あぁっ……あっ……」
 抑えようとしても、堪えきれずに溢れ出てしまう嬌声が、微かな水音と、動くたびに聞こえる衣擦れの音とともに、薄暗い部屋に響いていた。
 うつ伏せにされて、高く上げさせられた腰が樹の意思とは関係なく揺れ動いている。
 その後ろの狭間には、二本の指が深く埋め込まれ、快感に猛った中心を別の手で扱かれ、シーツにパタパタと溢れた蜜が滴る。
 何度目かの絶頂の兆しで反り返った背中に、大輔は唇を這わせた。
 どれだけの時間、こうして樹を攻め立てているのだろう。
 樹が敏感に反応する箇所を捜し当てて、そこを執拗に攻めながら、まだ一度も解放してやっていない。限界まで追いつめて、すんでのところではぐらかされて、切なげに悶える姿に、その苦しみを知っていながら、残酷ともいえる猛々しい興奮に自分もまた溺れていた。
「……も……やめ……あっ、んんっぅ……」
 反射的に声を殺そうとする唇に指をこじ入れて開かせる。
「あ……ん、んぁっ、あ、はぁ……」
 初めは服を脱ぐことすら嫌がった樹が、今は自分の下で身も世もなく乱れている。閉じることを禁じられた口元からは、途切れることなく声が溢れ、そこからも甘い蜜が糸を引いて滴り、淫らに光っていた。
 どうすればもっと啼かせられる?
 もっと欲しがってもらえる?
 何度目かの波をまたはぐらかされて、耐え切れなくなって前へと逃げようとする腰を引き寄せて、ゆっくりと仰向かせた。
 涙を滲ませて、その目が睨んできた。
「……いいか、げん……に、しろ……よ」
 喘ぎ喘ぎ、抗議してくる。
「……まだ、駄目だ」
 軽く唇を合わせて、そのまま耳へと滑らせる。んっと、顎が上がり、舌を這わせて息を吹き込むと、小さく震えて、ここが感じるのだと知らされる。
「俺、ばっかり……」
 素直に反応しながら、それでも不満を言ってくる。
「いつかのお返しだ」
 抗議を無視して胸の小さな突起を挟み込む。ぷっくりと膨らんだそれは大輔の唾液によってぬらぬらと光り、もっとと、誘っているようだった。女性のそれよりずっと控えめな粒を、丁寧に舌で転がして、ちゅっと吸い上げると、ピクンと魚のように跳ね上がり、甘い溜息を漏らす。
「……ここ、好き……な?」
「そ……ういう、こと、言うな……」
 降りていく大輔を引き上げようと、硬い髪に指を絡めてくる。構わすに舌を這わしていくと、大輔の意図に気づいたのか、慌てて体を起こしてきた。
「やめっ!……っ、ああぁっ!」
 最後まで言葉を続けられないまま、鋭い声を放って、背中が大きく反り返った。
「まって、だ……だめっ」
 大輔の口に呑み込まれた樹の屹立は、今までの執拗な愛撫によって、可哀そうなほど張り詰めていた。
 大きく喉を開いて奥まで呑み込み、上下に扱く。舌で先端を擦ると、苦い露が湧き上がってきた。
「駄目だってっ……も……っんぁ」
 波に呑み込まれまいと、懸命に首を振って大輔の髪に差し入れた指に力を込めて引き剥がそうとしている。
 一度口から離し、溢れ出る蜜を舐めとってやる。
 快楽と羞恥の狭間で戸惑いながら甘い吐息を漏らして喘ぐ、この紛れもない男の姿に、確かに興奮している自分がいる。こうやって自分の下に組み敷いて、俺だけのものだと、お前の為ならどんなことでもしてやれるのだと知らしめたい。
 震えながら、素直に快感を示してヒクヒクと波打つ樹のペニスをじらすように、触れるか触れないかの距離で唇を滑らす。
「……あ……んんぅ……」
 切なげに鼻を鳴らして、遠慮がちに腰を浮かせて大輔の動きを追いかけてきた。
「……いや、か?」
「ハァ……ん……ん……ぁ」
「どうしたい?……ん?……」
 甘噛みしながら我慢するなと促す。
「あっ……んっ……だ、って……も……でる……から……」
「出せ……全部飲んでやる」
 再び口腔に招き入れると、強く吸い上げながら、上下に揺すった。
「やぁっ、あっ、あっ、あっ、や、あぁっ、あぁあ」
 必死に波に呑み込まれまいと、首を振って抵抗する。膝の裏に手を掛けて、体を限界まで開いてやる。上下する口の動きに合わせて膝を揺らすと、つられるようにして樹の腰が揺れ始めた。引き剥がそうと食い込んでいた指が、大輔の頭をかき回すようにして絡まり、やがて大輔の動きに合わせ始める。
「……ん、んぁ、あぁ……もぅ……」
 快感が羞恥心を呑み込んで、その波に身を任せ始めた体が、自ら更なる快感を求めて蠢いた。
 そうだ。もっとだ。
 もっと感じろ。
 全部受け止めてやるから。
「ああっ……っ……」
 耐え切れずに大きく仰け反って、とうとう樹は精を吐いた。長い間我慢を強いられていたものを、やっと解放された喜びに震えながら、その吐精は長く、長く続いた。

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