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あの日たち
13

 その夜、俺は夢を見た。
 とても幸せな夢だった。
 斉藤さんの部屋でいつものように二人で夕飯の支度をし、いつものように二人で食べている。
 現実と違ったのは、俺は斉藤さんの恋人になっていて、夕飯の支度をしている彼にじゃれついて、抱き締め、キスをし、甘えていた。
 目を覚ましてしばらく、夢と現実との区別がつかなくて、ぼう、としていた。
 昨夜の斉藤さんの話を聞いて、それが夢になったんだろうと、自分の単純さに苦笑する。
 現実にはあり得ない。斉藤さんは男で、俺も男だし、斉藤さんの好きな人は可愛い年下の女性だし、俺にだって一応亜子がいる。
 まあ、あり得ない話だからこその夢なんだろうけど。
 斉藤さんの夢の中にお邪魔してしまったような少しの後ろめたさを持ちながら、だけどなんとなく嬉しくて、また見れないかなあ、なんて思って、枕を抱き締め、俺はもう一度目を閉じた。



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