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あの日たち
22

「君は本当に、甘えるのが……上手だ」
 諦めたような口をきき、俺のすることを大人しく眺めている。
 それは多分、弘人さんが俺を甘やかすのが上手なんだと思う。
 その寛容さに乗じて、俺は欲望のまま行動を起こした。
 全てを剥ぎ取り、露わになった下半身に躊躇なく顔を埋める。
「っあ、ぁあ、ん」
 身を捩って逃げようとする腰を捕まえ、ずり上がる身体を引き戻した。両足を掴み、広げると、逃げを打つ前にその中心に吸い付き、茎に歯を立てた。
「ああぁっ」
 歯を立てた場所をチロチロと舌で撫で、吸い付き、唇を滑らせ、また甘噛みする。その度にすすり泣くような甘い声を放ち、彼が感じているのが分かる。
「あ、あ、んんっ、はぁ……っぁん」
 抵抗を忘れ、波打つように俺の動きについてくる。もっと喜んで欲しくて、すでに濡れた先端を口に含んで上下させた。
 唇を動かしながら、付け根の双球を柔らかく揉み、その後ろへと指を這わせた。
 硬く閉じた窄まりを指の腹で撫でる。
「あ、待っ、て。そこ……は、ぁ」
 喘ぎながら、驚いたように弘人さんが俺の頭を掴んだ。戸惑ったような視線を向けられて、急に自信がなくなった俺は、気弱な視線を返した。
「やっぱり……いや?」
「あ、だって……」
「ここ、入れたい」
 また年下作戦を持ち出して、阿るように尋ねてみたが、今度は容易に承諾は得られないようだった。
 それはそうだろう。勢いに任せてここまでなだれ込んだが、俺だって正直言うと、経験はない。弘人さんが戸惑うのも当然だ。
 だけど、欲しかった。
「弘人さんを俺のものにしたい」
 俺を好きだと言ってくれた、その確証が欲しい。何より、彼の中に自分を埋めて、俺だけのものにしたい。
 俺の頭を掴んだままの手を取り、懇願を籠めて軽く噛む。
「んっ」
 歯形の付いたそこをペロペロと舐めて、また別の場所を噛み、顔を覗く。何度も同じことを繰り返す俺に、弘人さんはまた笑って「まったく君は……」と呆れたような、諦めたような、甘い声を出した。
「洗面所の棚にあるから。軟膏。取っておいで」
 言われるまま、素直に立っていって言われたものを取ってくる。
 複雑骨折した足は、ボルトを入れる手術をし、その傷跡に塗るために軟膏が処方されていた。風呂上がりにこれを付けている弘人さんの足をじっと見つめていたことがあるから、知っていた。
「塗り薬だし、開けてから一年経ってないから、腐ってはいないよね?」
 俺から受け取った容器の蓋を開けて、中を確かめている弘人さん。
 常々冷静な人だけど、こんな時にまで慌てない姿はなんだか不思議だ。
 それに、俺の要求に対して、何を用意したらいいのか即座に理解し行動に移すのが、不思議だった。
「あのさ」
「ん?」
「弘人さんの好きだった人ってさ、あの、もしかして……男の人?」
 俺が聞いたら、弘人さんはゆらりと笑った。
 その顔のまま俺を見上げる。
「そうだったら……君は僕を嫌いになる?」
「そんなわけない」
 即座に答えると、彼は嬉しそうにまた笑い、初めて自分からキスをしてくれた。
 キスを貰い、キスを返す。
 自然にベッドに倒れる形になり、さっきと同じように、弘人さんの上に重なる。
 彼の持っていたプラスチックのケースを取り上げ、中身を指に乗せようとして、ふと思い立って動きを止めた。
 俺の要求を受け入れようと、柔らかく横たわっている彼に、容器を押しつける。
「なに?」
 素直に受け取った弘人さんは、それでも俺の意図が分からないらしく、不思議そうな顔をしていた。
「してみせて?」
 俺の言葉に、初めて驚愕の表情を作る弘人さん。とても可愛い。
「僕が? ……自分、で?」
「うん」
 こっくりと頷く俺。
「俺、初めてだから」
「ぼ、僕だって、初めてだよ」
「ほんと? そうなの?」
「……うん」
 恥じらうように下を向く弘人さんが可愛くて、俺は意地悪をしたくなった。
「じゃあ、一緒にしてみる?」
 戸惑う彼の手を取り、「ほら」と容器に指を入れる。
「や。やだ」
「なんで?」
 初めて嫌だと拒否するのをこちらも拒否し、濡れた指先を後ろに連れて行く。
「や、や、いやだ」
 いやいやと首を振る顎を捕まえ、口づけをしながら動きを封じた。



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