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あの日たち
23

「……っんぅ」
 仰向けになり彼の下に身体を滑り込ませ、お腹の上に跨るような格好をさせて、もう一度促す。
「じゃあ、こっち向いたまま。これなら見えない。だから……ね?」
「……あっ……ぁ、ぁ、ぁ……」
 重ねた指でスリスリと狭間を撫で、彼の中指を、ぐ、と押し込む。
「あっ」
 仰け反る喉もとを眺めながら、尚もぐいぐいと押し込んでいく。
「っや、そんな……いっぺんに、入らな……」
「ごめん。分かった。じゃあ、このまま……できる?」
「ん、ん ん……」
 クチュクチュという水音を聴きながら、弘人さんを上に乗せ、震える身体を可愛がる。
 首を伸ばし、胸に這わした舌で小さく尖った突起を突き、歯で軽く挟んで引っ張った。
「はあっ、ああんっ、あ、あぁ」
 やはり痛くされるのがとても好きなようだ。
 強く吸い、挟み、引っ張り、また舌で転がす。揺れる身体をもっと揺らせと腰を掴んで揺さぶると、今までになく甘い声を放ち、弘人さんが倒れ込んできた。
 俺の胸の上で喘いでいる頭を撫で、背中に手を這わす。彼の腕は、まだ後ろに繋がれている。
「今、指何本入ってるの?」
「……い、い、ぽん、まだ……ぁ」
「二本目……入る?」
「ん……ん……」
 快楽に理性が飛んだのか、素直に指を増やしている。
 健気に俺を受け入れようと準備をしている彼が愛しくて堪らなくなり、褒美のように優しくキスをした。
「あ……ぁ、……ん、ふ、んぅ」
 喉の渇きを癒すように、俺の唇に貪りつき、喘ぎながら欲しがる舌に自分の舌を絡ませ嬲る。
「解れてきた? 三本目、入れる?」
「ま、まだ……無理、あ、いや、そんなの、無理……ひ、ぁ」
 根本まで埋め込まれた指に自分の指を沿わせ、いっぱいの入り口の隙間に入り込もうと潜らせていく。
「も、少し。弘人さん……一緒に入れて?」
 耳元で囁きながら、性懲りもなくねだる。
 抜き差しを繰り返す指の狭間に滑り込ませた俺の指が、彼のと一緒に中に入れてもらえた。
「……入れてもらえた。ほら……」
 キスをして、自分の存在が分かるように、わざと弘人さんとは別の動きで奥深くまでゆっくりと入ってみせる。
「きつ……っ、い」
 眉を顰め、苦しむ表情に、獰猛な興奮が湧き上がる。
「……弘人さん」
 根本までねじ込んだ指を、回転させるようにぐるりと撫でると、こりっと凝った場所に当たった。そこに触れた途端、弘人さんの顔が跳ね上がった。
「やぁっ、……あぁあん、そこ……やめ、や、はぁ、あああぁっ」
「ここ?」
「やだぁ、あ、ぁあ、あぁ」
 狂ったように泣き叫ぶ姿に、もう堪らなくなってきた。
「弘人さん……もう、入れたい。いい?」
「あ……」
 弘人さんを乗せたまま身体を起こし、あぐらをかいた状態で、今まで指の入っていた場所に自身を宛がう。
「あ、……このまま?」
「うん」
 腰を掴み、ほら、と促すと、彼はゆっくりと身体を沈ませていった。
「……ん、んぁ、ん、ん」
 体重に任せて全てを埋め込み、飲み込まれていく。締め付けてくる感触はきつく、痛いくらいなのに、それが酷く気持ちいい。
「ああ……」
 一つになれた喜びにため息が漏れた。
 それは不思議な既視感だった。
 吸い付く肌の湿った感触も、舌に触れる味も、きつく包み込んで、それなのに柔らかく受け入れる彼の中も、彼がどうすれば喜ぶのかも、知っているような気がした。
 たぶん、俺の要求を全て受け入れる、目の前の人の柔軟さが、そんな錯覚を起こさせているのかもしれない。
「大丈夫? 痛い?」
「い……たい。痛い……痛い」
「まだ動いちゃ、だめ?」
「まだ……駄目」
 本当は早く揺さぶりたい気持ちもあったけど、我慢して待つ。俺よりも余程負担の大きい痛みを、黙って耐えてくれる彼が愛しい。
 中を擦らないように、細い身体を引き寄せ抱き締める。 
「弘人……」
 俺のものだという意味を込め、名前を呼ぶと、弘人は一瞬泣きそうな顔を作り、それからゆっくりと笑った。
「弘人、好きだよ」
「うん。僕も……好きだ」
「俺のものだよね、もう」
 弘人は柔らかく笑って「そうだよ」と返事をした。
「もう、引っ越さない?」
「うん。引っ越すときは、そうだね、一緒に行こう」
「うん」
「どこにも行かない?」
「行かないよ」
 絶対だよと指切りをした。
 俺を置いて行っちゃ嫌だよと、子どものように言ったら、弘人は真剣な顔で「絶対、置いて行かない」と、絡めた小指に力を込めた。
 約束の印に、絡まった指に唇を押しつけ、自分の指ごと強く噛んだ。
「……あっ」
「痛い?」
「ん、いた……痛い」
「こっちは? もう痛くない?」
 繋がっていた場所を揺らしてみる。
「あ、あ、んんんぅ……」
 むずがるように首を振り、何かを我慢するように弘人が眉を寄せた。
「動いてみせて……弘人」
「は、ぁ……っ、ぁあ、あっ」
 俺の声に、弘人が素直に従う。
 本当にこの人は、俺の全ての要求を抗うことなく受け止めてくれる。愛しい。
「もっと、……ほら」
 俺の首に巻き付きながら、弘人が揺れ始めた。艶めかしく揺れる腰が、次第に激しく波打ち始める。
 息が苦しいぐらいに抱き締められていた腕をそっと外し、揺れる弘人を見上げながら動きに合わせる。
「ああ……弘人。気持ちいい」
 経験したことのない恍惚感で、自然と声が漏れる。
 見上げる俺の顔を見つめながら、弘人が笑う。その顔は嬉しそうだ。
 細い腰を掴み、一緒に揺れながら、反らされた胸元に吸い付く。
 痛いのが好きな弘人をもっと喜ばせようと、乳首に噛みつき更に激しく揺さぶった。
「ああぁっ、ああ、あああっ、ぁあーっ」
 大きく仰け反って甘やかな絶叫を放ちながら、触れられないままの彼の劣情から精が迸った。
「あ、あ、あ、あ、ああぁ……」
 はき出されるそれに合わせるように、身体を揺らし続け、胸を刺激する。
 俺を飲み込んでいた中がギュっと締まり、複雑な動きで絡まってきた。
「弘人、弘人……あっ……っ……っ」
 夢中で掴んでいた腰を揺らし、上下する動きに合わせ、自分の腰を突き上げる。
 眩しいような感覚に眼を細め、官能の導くまま解き放つ。
「あっ、ああっ!」
 泣き出したいくらいの快感だった。
 腕の中の人が、俺を見つめている。
 自らも悦楽の波に流されながら、俺が追いつくのを待ってくれている。
「弘人……」
 弘人の胸に顔を埋めたら、本当に涙が出てきた。
 幸せすぎて、子どものように泣く俺を、弘人が優しく撫でている。
「花見、今日は行けないね」
 俺の幸福感を他所に、弘人が花見の心配をしていた。今となっては桜なんかどうでもよくなっていた俺は、弘人にしがみついたまま泣きじゃくっていた。
「まだ咲いてるから。日曜とか……行こう?」
 しがみついたままそう言うと、うん、と無邪気な返事が聞こえた。
「日曜、雨降らないといいなぁ」
 そんなに桜が好きなの? 俺よりも? とそれこそガキのような不満の言葉をぐっと押さえ、俺はずっと弘人の胸に顔を埋めていた。
 夢が現実になった。
 夢の中で、俺は弘人に触れ、キスをし、こうして甘えていた。
 夢が、夢でなくなった幸福に浸り、俺は確かに腕の中にある温もりを抱き締め続ける。
 薄く開かれたカーテンの外には、まるで覗くような月が浮かび、抱き合う二人を照らしていた。



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