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あの日たち |
3 |
窓から月が覗いている。 カーテンは閉まっていない。 部屋中に広がった月明かりの中で、二つの陰が蠢いている。 「……ん、ん」 大きな影が小さな影を乗せて揺らめいている。 「弘人、ほら、もっと動けるよ」 こういう時、眞さんは僕を呼び捨てにする。六つも年下なのに、まるで子供を扱うように僕を翻弄する。 そう言うと、眞さんはちょっと拗ねたようにして「学年は五つだよ」と言い返してくる。 僕が男で眞さんよりも年上なことを気にしているように、眞さんも自分が男で、僕よりも年下なことを気にしている。 甘えるのが凄く上手なくせに、こうして僕を翻弄しながら、すべてを支配しようと画策しているようなのが、可愛らしくて、すごく愛しい。 膝に乗せた僕の腰を掴み、もっと激しく動けと促している。僕の中には彼が埋まっていて、上下される動きに合わせ、それが僕を狂わせる。 「ほら」 「もう……無理だって」 苦しくなって首にしがみついている僕を優しく引き剥がし、もう一度動けと命令される。 首から剥がれた僕の身体を持ち上げられて、彼の唇が胸に当たった。 「っ、あっ、あっ、……っ、ぁあ」 隆起した乳首に噛みつき、歯を果てたまま身体を揺らされて、思わずきつく目を綴じながらその動きに合わせる。 「好きだよね」 「あ……、ん、あ、な……に、が、っぁあ、ああ」 「……痛くされるの」 カリ、と小さな粒を歯で挟みこみ、チロチロと突起を撫でられて、僕は大きな声を上げながら仰け反った。 「そ……んな、こと……」 必死に否定をする僕を笑いながら眞さんが見上げた。 「だって、ほら」 身体と一緒に揺れている僕のペニスを包んで眞さんがまた微笑んだ。 「あっ」 「凄い、濡れてる。……いい?」 「ふ、ぅん……あぁ、あぁ、あぁあっ」 いやいやと首を振る僕の乳首を強く噛み、ペニスを包んでいた指先で、先端をグリグリと抉られて嬌声を上げた。 「好きなんだよね。こうされるのが」 尚も僕をいたぶりながら、眞さんは僕の返事を促す。強く噛まれて痺れた先端に、今度はねっとりと舌を絡ませ、チュクチュクと舐られた。 「は、ぁ……んんっ、だ、……て、ぁ」 「だって?」 「痛い、と……夢じゃない、気がして」 「……夢?」 夢じゃないかと疑ってしまうときがあるのだ。 だって、こんなに幸せだ。 こんな幸福が僕に訪れていいのだろうかと疑ってしまうほど、幸せなのだ。 初めて逢った時に綺麗な人だと思った。 こんな綺麗な人と隣人になれて、幸運だと思った。 その先を望んだことはない。先を望むのは無謀なことだと諦めていた。 挨拶を交わし、たまに会話を交わし、笑顔を返してもらえるだけで満足しなければと思っていた。 慣れない一人暮らしを影ながら見守り、助け、やがて成人し、彼女を作り、大人になっていく彼を、隣から眺めている生活で満足だったはずだ。 それが、今彼は、僕の腕の中にある。 どうして。 好きだった。こうなることを夢想していた。 だけどどうして? 「弘人……好きだよ」 揺れながら僕の不安を打ち消すように眞治が笑う。 「夢じゃない。弘人が好きだよ」 「あぁ、ああ……僕、も……好きだ」 「名前、呼んで? 弘人」 「あ、んん、あ……し、眞治……」 彼の名を呼び身体を開き、彼の上で揺れ続ける。 月が見ている。 帰り道で仰いだ位置と変わらずある月が、僕たちの情事を静かに見ている。 「弘人……弘人……好きだ。好きだよ。だから……」 ――俺を置いて行かないで。 僕を翻弄しているのは彼なのに、僕を責め続けているのは彼のはずなのに、眞治は僕を見上げ、縋るような目をして言った。 |
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