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あの日たち |
5 |
――バンッ! 衝撃で目が覚める。 ああ、また夢を見ていた。 いつもの金縛りの状態が、本物の覚醒に移るまで、じっと待つ。 だけど、いつまで待っても本物の覚醒は訪れなかった。 身体は重く、目の前の光景もぼんやりとしたままだ。やがて、微かな物音が響いてきて、それと一緒に規則正しい電子音が聞こえてきた。 ピ、ピ、ピ。 目覚ましの音だろうか。 ぼんやりとその音を聞きながら、もう一度眠気に包まれるのを待っていた。 眞さんはまだ寝ているのだろうか。 手を伸ばして彼の温もりを確かめたかったが、金縛りはまだ続いているらしく、腕は動かないままだった。 「……っつ」 動かそうとした指に僅かな痛みが走り、思わず声が出た。 今朝、眞さんに噛まれた指先がずきずきと痛む。 ……いや、あれは今朝のことだっただろうか。 花見の約束をして、もう一度目を閉じた記憶はない。知らないうちにまた寝入ってしまったのだろうか。それなら今は何時なんだろう。 取り留めなく思考する僕の耳には、ずっとあの電子音が響いている。 ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。 知らないうちに、ずっと開きっぱなしだったらしい僕の目が、だんだんと色を取り戻していく。 開けていく視界に映る天井は、僕の部屋の天井でも、眞さんの部屋の天井でもなかった。 ああ。 白い天井と、細長い無機質な蛍光灯の形、目の端に映る、桜色の布地を認め、僕は気が付いてしまった。 自分が本当に覚醒してしまったことを。 僕は、彼を置き去りにして、一人戻ってきてしまったのだ。 |
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