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雨が止むまで〜意地っ張りの恋〜
22


 玄関先で靴を履いたままの克也にキスをされ続ける。
 離れては近づき、おでこを合わせ、また重なる。智にとって克也の唇が久しぶりだったように、克也もまるで喉が渇いた子どものように、何度も求めてきた。
 水音と、自分の声と克也の吐息が混ざり合い、懐かしい疼きがやってきた。
 は、ぁ、と溜息を吐き離れると、二人の間に銀の糸が引かれた。体が熱い。涙はもう流れてはいなかったが、別の熱で潤んでいるだろうことを自覚しながら克也の目を覗く。そんな智の変化を感じ取ったのか、今度は首筋に唇を這わせてきた。
「……ぁ」
 さわさわとやさしく触れながら唇が降りていき、服の上から鎖骨を噛まれた。
「んっ……あ」
 智の声が合図のように、克也の手が動き出す。背中に回された掌が撫で上げるように滑り、もう片方の手がシャツを引っ張り出している。少しできた隙間から入り込むと、シャツをたくし上げるようにしながら這い上がってきた。
「あ、あ、かっちゃ……」
 感じやすい体はすぐにも反応して、克也の動きに合わせ、ビクビクと跳ね上がる。
「待って。ここ……玄関」
 胸の突起を捕まえて、親指と人差し指できゅっと摘まれた。
「っ……ぁっ」
 智がこうされるのが好きだと知っているから、嫌だと抵抗しても聞いてもらえなかった。
「かっちゃ……んんっ、ちょっ……と、靴、靴」
 土足で乗り上げている足を注意すると、克也はちっ、と舌打ちをして智から離れた。
 ドアのほうを向いて靴を脱いでいる後ろで体勢を整えていると、脱ぎ終わった克也が立ち上がり、まだ廊下に尻餅を着いたような状態の智の腕を取り、引き上げてきた。
「かっちゃん、あの……」
「おら、ベッドいくぞ」
「や、あの、今すぐ?」
 ことの展開の早さについていけず、おたおたとしながらそう聞いた。智の手を引っ張り、部屋に戻ろうとしていた克也が振り向いた。
「嫌なのか?」
 嫌じゃない。嫌なはずはない。
 ……でも。
「あのっ、俺、一昨日から風呂も入ってないし」
「別に気にならねえ」
「俺は嫌だよ。気になる」
 智の訴えに、克也はまた舌打ちをし、「じゃあ入ってこい」とバスルームを顎でしゃくった。バスルームに向かう智を見送り、克也が寝室に入っていく。
 バサバサと音を立てているのは、昨日の朝、智が脱いだままベッドに放置しておいた部屋着を床に落としているのだろう。
 脱衣所で服を脱ぎ、奥のドアを開ける。髪を洗い、体にボディソープを塗りつけて、丹念に洗った。克也と抱き合うのは一年以上ぶりだった。嬉しくもあり、恐ろしくもある。
 思案に暮れながらシャワーを浴びている背後で、パタンとドアが閉まる音がした。後ろから伸びてきた腕に抱き締められる。
「いつまで洗ってんだ」
「……あ」
 智の胸を撫でていた掌が、乳首を摘んできた。同時に耳を噛まれ、熱い舌で舐られる。
「あっ、あっ」
 膝が折れそうになるのを、力強い腕が支えてきて、壁に手を付くようにと誘導された。
 シャワーに打たれながら、克也の愛撫を受ける。やさしい手つきは前と変わらず、智のすべてを知っている指は、好きな場所を的確に捜し当て、早急に煽られていった。耳の中に舌を差し入れ、耳殻を這っていく。そうしながら前の手は両方の乳首を摘み、育てるように指先で扱かれる。
「は……ぁ、ぁあ、ああ……」
 仰け反る智の顔について来るようにして克也の舌が耳に忍び込む。尖らせた舌先が中で蠢いていたかと思うと、次には全部を含まれて、ぐじゅっと音を立てて吸われた。
「ああっ」
 これをされると、もう膝に力が入らなくなって、立っていられなくなる。崩れ落ちそうな智の体を回した左手で抱えるように立たせ、右手が下へと降りていった。
「……待って。待ってかっちゃん」
 慌てて克也の手を掴み、それが動くのを阻止した。こんな早急な愛撫を受けていては、すぐにも達してしまう。
「俺、いいから。今日は俺がするから」
 無理矢理体を反転し、克也の方へ向き直る。
「俺にさせてよ」
 自分から唇に吸い付き、克也の前に跪づこうとした。
「なんだよ。智。どうした」
 積極的に奉仕をしようとする智に、克也が咎めるような声を出す。
「ほら、俺、早いからさ」
「……智」
「すぐイッちゃうし……かっちゃん楽しめないだろ?」
 克也に犯されたあの日、朦朧としながら、克也の言葉を聞いていた。つまらない、よくなかったという声は、今も耳に残っている。

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