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雨が止むまで〜意地っ張りの恋〜
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 寝不足の日々が続いていた。
 新商品の発売が目前に迫り、宣伝部も営業も含め、会社全体が活気づいている。やらなければならないことは山ほどある。要領が悪い分、人の倍の努力をしなければならない。
 宮島の智に対する態度も相変わらずきついが、だからといって休んではいられない。学生時代とは違うのだ。助けてくれる人も、愚痴も甘えも聞いてくれる人もいない。
 寝不足の頭でふと手が止まると、同じ光景が浮かんでくる。
 あの雨の日の、駅での光景。そのあとの、自分の想像した風景。
 克也には克也の確立された生活がある。つき合いもあるだろうし、親しい友人もいるだろう。
 だけど、一年前には頭の隅にもなかったある考えが、ずっと居座り続け、それがふとした瞬間に思考の隙間に入り込み、それが智を苦しめていた。
 子どもの頃から知っている幼なじみだ。危ないヤツだ、乱暴者だと言われていても、それがある種の魅力となっていることも知っていた。眉間に皺を寄せ、睨みをきかせた表情は確かに迫力があるが、それが穏やかな涼しい顔つきになると、劇的に印象が変わることも知っている。それにあの長身だ。
 智も恋愛の数だけ上げれば相当なものだが、克也だって負けてはいない。欲求が薄いといっても、上げ膳は絶対に食っていたのは確かだった。
 性への興味が目覚めたとき、お互いに一番近かった同士でそれを試した。快楽を覚えたら、興味は女性に向いた。それがごく自然な欲求だと、信じて疑わなかった。
 克也とああいうことをしておいてそんなことを言うのもおかしな話だが、智にとってそこに矛盾はなかった。
 なぜなら克也以外の男に触れられたいとも、まして恋愛感情など持ったことがなかったからだ。
 かっちゃんだけは特別。
 だから安心して他の女性に目を向けられた。
 克也はしきりに智に「入れさせろ」と言った。冗談だと思い、取り合わなかった。それ以上無理強いされることもなかったから、本当に冗談だと思っていたのだ。
 だけど一年前のあの雨の日、克也が智に対して施した行為は、明らかに同性と抱き合ったことがあるのだということを証明していた。
 いつから、誰と。
 そう思う先に、あの金色の髪をした人が現れる。駅で親しげに並ぶ二人を見たとき、今まで経験したことのない黒い感情が頭をもたげたのだ。
 ――俺のものなのに。
 克也の部屋に二人で行き、昔智にしたような、いや、それ以上の行為をあの金髪とするのかと想像したら、おかしくなりそうだった。
 自分のものだったはずのあの手が、唇が、体が、他の人に触れたのかと思うと、叫び出したいほどの苛立ちで、その場に立っていられなくなる。
 だけど、それが智の勝手な想像なのか、そうではないのか、克也に問い詰めることができない。そんな権利も資格も、智にはないのだ。
 どうすることもできず、ただ悶々としながら、今の仕事が終わって落ち着いたら、どうやって連絡をとる口実をみつけようかと、考えを巡らすことぐらいしかできなかった。


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