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明日晴れたら〜ろくでなしの恋 6 |
『なあかっちゃん、時計欲しくない?』 「……いらねえよ。切るぞ」 電話に出た途端、これだ。 仕事を終え、部屋で晩酌をしながら寛いでいたときだった。 『いいのがあんだって。特別価格らしいぜ』 「なんだお前。セールスでも始めたのか?」 『いやいやいやいや。ほらさ、かっちゃんにはいつもお世話になってるからさ。お買い得品をいち早く知らせたわけよ』 どうせマリコにせっつかれたか、自分からいいところを見せようと気張ったか、そんなところだろう。 「世話になったっつうならくれよ。時計。それならもらってやる」 『なに言ってんの?』 「そんなことよりこないだ貸した一万円、先に返せ」 所持金三十円の智のために、朝、テーブルに置いて出掛けた。財布の中にはそれ一枚しか入っていなかったから仕方なかった 電車は定期だし昼は仕出しの弁当が出る。高価な時計を買う必要もないし、生来物欲に乏しい克也だ。 『ちょちょちょちょ、今はそんな話じゃないだろ?』 「俺だって生活があるんだ。早いとこ返せよ」 だが、いくら物欲がないといっても家賃はあるし腹だって減る。生活をしていかなければならないのだ。 『今、俺、金欠だって言っただろ?』 「お前はいつだって金欠じゃねえか。だいたい実家に住んでてバイトもしてんだろうが。自活してる俺から金取るってどういう了見だよ」 『いろいろ事情があるんだって』 「ろくでもない事情だろ」 『そう言うなって。あ、そだそだ。今度地元のやつらでさぁ、飲み会やろうって。かっちゃんも顔出せよ、たまにはさ』 分が悪くなった智が分かり易く話題を変えた。 『成人式んとき、みんなでまた集まろうぜって話だったじゃん』 克也は成人式には出ていないが、その後の飲み会には参加していた。久しぶりに昔の仲間と顔を合わせ、そんな話になったのは覚えている。 地元の連中は、中学まで一緒だった奴らがほとんどだ。高校は皆バラバラだったし、克也は中退して地元から出てしまった。その後、智のように進学した者もいたし、働いている者もいて、なかなか集まる機会がないのが現状だった。 「ふうん。いつ頃?」 『まだ決まってない。でもさ、近いうちにって話』 「分かった。決まったら知らせてくれ」 『そんときにさあ、ちょっとグレードの高い時計とかしてたら、お、かっちゃん出世したなってみんな思うんじゃね?』 話を無理矢理に戻してきた。 「んなこと自慢にならねえし。第一出世もしてないから結構だ」 ちぇー、と電話の向こうでふてくされた声がした。 「お前さあ、智。マリコにいったいいくら貢いでんだ?」 『えー。別に貢いでないよ』 「時計いくらしたんだよ」 『別にたいした値段じゃないよ』 時計なんざ時間が分かればそれでいいと思っている克也には、それに五万も十万も掛けるというのが分からない。 「十万とかか」 『んー。もうちょっと上、かな』 「……いくらしたんだよ?」 『まあ、時計ってさ、いろいろあんじゃん。三十万とか普通よ?』 「さんじゅうっ……俺の家賃の三ヶ月分より高ぇじゃねえか」 『あっ、いやいや。俺のはそこまではいかないって』 慌てて言い繕う声を聞いて、嘘だと思った。 「相変わらず馬鹿だな。んで、マリコにはやらせてもらったのかよ」 『ちょ、かっちゃんなんてこと言うんだよ。マリコちゃんはそんな子じゃないって!』 三十万もする時計を買わされて、やらせてももらっていないらしい。もう少し上手く立ち回れないものか。何故いつもそんなのにばかり引っかかるのか。 ついこの間まで熱を上げていたリサという女だって、克也に言わせれば、なんでこんなのが? と聞きたくなるような遊び人だった。一緒にプリクラで撮ったという写真を見せられたが、化粧が濃すぎて素顔どころか性別すら区別が付かないような顔をしていた。 そして選ぶ女に脈絡がない。多少馬鹿だが普通に大学に行けるぐらいの頭は持っている。傍若無人な性格も、顕著に表れるのは克也の前でだけで、智にとっては身内のような感覚だから遠慮なくさらけ出している節がある。それ以外にはそこそこ抑えられているのだ。 黙っていれば向こうから女が寄ってくる。学生時代、克也が記憶しているだけでも相当な数の告白を受けていた。その全部と付き合っていた。そして最後には振られていた。 派手な女性遍歴を持っているのに学習能力がない。惚れやすく、流されやすく、考えなしだ。挙句、痛い目に遭い、克也に泣きついてくる。それの繰り返しだった。 |
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