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明るいほうへ |
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「……キス」と促されて唇を差し出す。キスは好きだ。気持ちがいい。さっき遠藤君に教わったとおりに唇や舌で愛撫した。さっきよりはうまくなっただろうか。喜んでもらえたらいいな、と口づけを繰り返した。 「……なんだか、ちょっと野坂さんの扱い方がわかってきました」 遠藤君が嬉しそうに言った。 「トリセツ? 俺の?」 「はい」 「どんな? 教えて」 「企業秘密です」 キスをしながらそんな話をする。 「俺には遠藤君の取り扱い方はさっぱりだ」 ふふっと笑って抱きしめられて、それから……深く合わさった。 素肌に羽織ったワイシャツがサラサラと肌に触れる。「少し上へ」と目と手の動きで促されて膝立ちになる。遠藤君の柔らかい唇が肌に触れながら降りていく。首筋、肩、鎖骨、と辿るように滑っていく。 「……んっ」 さっきの感電したような感覚を思い出して背中がぞわっと粟だった。はやく辿りついてほしいのに、なかなか降りてきてくれない。近くまできて、遠巻きにしながらまた放れていってしまう。じれて遠藤君の頭に添えていた手に力が入る。わかってもらいたくて懸命にかき回す。 「……あ、遠藤君……え、んどう……く、ん……」 「なに? ……ん?」 聞かれても答えられない。見つめる瞳に涙目で訴えた。はやく……さっきの場所……。 ふっと笑って、とうとう望んでいたところへ口づけをされた。 「あっ、あっ、んん……っ」 「ここ?」 「んっ、んっ」 舌で捏ねられて、もう片方を親指の先で擦られて、その気持ちよさに翻弄された。遠藤君にこうしてもらうのを何度も想像して、自分で触ったことはあったけれど、実際されてみるとそれは比べものにならないほどの快感だった。 胸を愛撫しながら、背中や脇腹を撫でさすっていた手がベルトにかかってきて、俺は慌てた。 「や、やだ」 「どうして?」 「は、ずかしい!」 「俺見たい」 「みっ? 見ても、たいして、お、面白いもんじゃ、ないからっ」 「でも見たい。触りたいです」 「やだっ、やだっ」 しょうがないなあとため息をついて、それでも慌てず遠藤君は「じゃあ、こうしましょう」と折衷案を出してきた。 「服は脱がないままでいいから、少しだけ触らせて? それで、どうしても嫌だったら止めますから」 「絶対に?」 「絶対に!」 「それなら……んっ」 承諾を得ると、気が変わらないうちにとすばやくベルトを緩められて、前をくつろげられた。俺が暴れないように胸への愛撫を繰り返しながら。なんだか丸め込まれたような、前にもこんなことがあったような気がしたけど、あんまり我儘を言うのもなあ……と思ったのが間違いだった。 服を着たままズボンを緩められ、下着をずらされて性器だけを剥き出しにされ、遠藤君の手によって育てられている状態は、想像を絶するいやらしさで、そのあまりの恥ずかしさに頭が沸騰しそうになった。 「いやっ! いやだっ! こんなのっ! やめて……ぇ!」 すぐやめるって言ったのに! 全然止めてもらえない。 「は……ぁ、や、だ……って、ばっ」 首を振って抵抗した。今日何回目か分からない涙が流れた。 「うっ……あ、あっ」 泣きじゃくる俺の顔を遠藤君が見上げた。「……キス」と言われて従ったのは、こうすれば恥ずかしい姿を見られないと思ったからだ。唇が離れても、見られたくなくて遠藤君の首にしがみついて顔が下を向かないようにした。 「ほんとに、いやですか?」 「いやだ」 「……ミツル」 耳を噛まれた。 「……あっ」 「みつる」 ずるい。今名前を呼ぶなんて、ずる過ぎる。 しがみついていても、手の動きを止めてくれないから、下のほうからクチュクチュと水音が聞こえて俺のアレが今どうなっているのかわかってしまう。 「……気持ち、よくない?」 「……ん、ふっ」 「ミツルが気持ちよくなってるところ、見たい」 「……ぁ……ん、ん」 遠藤君の手で育ちきってしまった俺のアレをゆっくりと上下に擦られて、先端の濡れた所を親指で広げるように撫でられる。 「ここ、濡れてる。喜んでますよ」 「言わ……な、いで」 「なんで? 恥ずかしくないですよ? こっち見て……キス」 求められると素直に応えてしまう。なんだかもう……どうでもよくなってきた。 見つめ合ったまま、遠藤君の動きに身を委ねた。 「ふっ……ぁ」 「声殺さないで。可愛いから……」 「あっ……んぁ、んっ、あっ」 「……すごい……興奮する……」 嬉しかった。声を褒められて、俺を見て遠藤君が興奮してくれている。ご褒美が欲しくてそっと舌を差し出した。すぐに貰えた。嬉しい。 「はっ……ぁ、あっ、あっ、んんっ」 羞恥を手放したら、すぐに絶頂感が押し寄せてきた。遠藤君の動きに合わせて腰が波打ちだす。 「あっ、あっ」 「……気持ち、いい?」 「んっ、んっ……もち……い……い、もぅ、んあっ」 「達(い)きたい?」 揺れながら頷く。少しきつめに握られて、上下に激しく動かされた。 「ああっ、あっ、あっ、あっ」 「いくとこ……見せて……」 「やだっ……ぁっ」 いやいやと口で言いながら、体は浅ましく遠藤君の手の中を行き来する。 「え……ん、どう、くんっ……えんどう、くん……」 目は俺から外さない。 「ああっ!」 やがて、耐えがたい快感が体中を貫いて、俺は遠藤君に見つめられたまま、彼の手の中で飛沫(しぶ)いた。 「……ん、ふ……」 遠藤君の肩に体を預けてしばらくそのままでいた。いつそばに用意したのか、ティッシュの箱を引き寄せて後始末をしてくれている。虚脱状態だったから遠慮もしなかった。丁寧に拭いて貰って、あるべき場所へしまってもらった。 「なんだか、騙されたような気がする」 凭れたまま不満を口にした。 「え、なんで? 俺騙してなんかいませんよ?」 しゃあしゃあとよく言ったものだ。 「すぐにやめるって言ったくせに」 「……やめてほしかったですか?」 「うっ」 反論できない。頭を撫でてもらって、うっとりと眼を閉じた。なんだかまだこうしているのが信じられない。 「可愛かったですよ」 遠藤君が俺にこんなことを言ってくれるのが夢みたいだ。 「可愛くて、とてもやらしかった」 夢だったらよかったのに。 「やっ、やらしいって!」 「誉めてるんですってば。可愛くて、いやらしいなんて、最高じゃないですか。エロやらしいっていうんですよ」 「遠藤君……それをいうなら、エロ可愛いだよ」 頭の上で遠藤君が噴き出した。自分で言ったことにウケている。ああ、可愛いなあ本当に。どうしてあげたらいいんだろう。大好きだって気持ちをどうやって伝えたらいいんだろう。 |
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