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明るいほうへ
29

「あの……さ」
「はい、何でしょう?」
「あの、俺も……その、お返しというか……これ……」
 そっと、遠藤君に触れた。さっきから下の小遠藤君が何か物言いたげに俺も俺もとその存在を主張していた。
「あ、ばれました?」
 ばればれです。嬉しいけど。
「うん。だから……」
「……してくれるの?」
 耳元で囁かれて腰が砕けそうになる。
「うん。したい……いい?」
 寄りかかっていた体をゆっくりと離された。
 遠藤君が自分のシャツに手をかけて脱いでいく。アンダーシャツから潔く首を抜くと、美しい肢体が露わになった。隆起した肩には均整のとれた筋肉が息づき、胸板は厚く、その下にある腹筋が呼吸と共に上下している。
 思い描いていた以上のその美しさに釘づけになっていた。スラックスも抜き取ってボクサーパンツ一枚になった彼は、見せつけるようにしてゆったりと座りなおした。左手を後について、あいた方の手が差し出される。吸い込まれるようにその腕のほうへと近づいた。
「……きれいだ……すごく、きれい」
 褒められて、擽ったそうに笑った瞳は情欲と期待に揺れている。恐る恐る手を近づける。
「触っても?」
 お伺いを立てたらくすっと笑われた。
「もちろん。好きに触っていいですよ。……野坂さんのものだから」
「俺の?」
 俺のもの? このきれいな体が全部俺のもの? 
 そっとしなやかな肌に触れる。少し湿った掌が吸いつくようにしてぴったりと合わさった。タイルのように割れた腹筋に這わせると、ひくっと応えて押し返してくる。筋肉に包まれた厚い胸に唇を寄せた。「……んっ」と熱い吐息が項にかかる。
 直に触れ合いたくなって、羽織っていたワイシャツを脱ぎ捨てた。首に巻きついて体を密着させる。お互いの体温が合わさって一つに溶け合っていくような錯覚に陥った。キスをしながらゆっくりと沈む体に重なる。俺が押したのか、彼が引き込んだのか、それも分からないほど自然に横たわった。
 俺のものだという体を確かめるようにして手を這わせ、唇を滑らせた。乳首を吸ったら、遠藤君がくくっと、喉を鳴らした。くすぐったいみたいだ。さっきの彼を真似て、胸の横に吸いついて痕をつける。『俺のもの印』だ。赤い印を指で撫でてから、下の方へと降りていく。期待に膨らんでいる下着の上に手を置いた。驚いたことに、十分に膨らんだそこは柔らかさが残っていて、まだこれからだというように悠然と待機している。これで臨戦態勢になったらどんなことになるのだろうかと恐ろしくなった。
 布の上から摩るとひくっと腰が跳ねて、遠藤君が小さく仰け反った。
「はぁ……」と息の漏れる音を聞いて、自分が煽られる。少しずつ形を変えていく隆起に我慢できなくなって、下着を引き下ろす。腰を浮かして動きを助けるようにして露わになったソレを目にしたら、ごくっと喉が鳴った。
「わ……ぁ……」
 感嘆の声を漏らして、思わず見とれた。体格に見合った立派な屹立が挑むように目の前にある。「欲しい」と素直に思った。魅入られるように顔を近づけて口に含んだら、それまで大人しくされるままになっていた遠藤君が初めて慌てた。
「う、わっ!……ちょ、ちょっと!」
 わしっと頭を掴まれて引きはがされた。せっかく欲しかったのに何をする、と持主に抗議の目を向けた。
「なんだよ」
「いきなり、それ?」
「なんで? 好きにしていいって言った」
「い、言いましたけど、最初から無理しなくてもいいですって」
 無理なんかしていない。全然無理なんかじゃなかった。
 愛しくて、愛しすぎて、未だに夢の中にいるみたいなんだ。夢じゃないのを確かめたいんだ。明日になったら目が覚めてしまうかもしれない。すべてが幻になるかもしれない。だから、今だけでも俺のものだって言ってくれる遠藤君を愛したいんだ。
 頭を持たれたまま、もう一度降りて行った。遠藤君がじっと俺の行動を見守っている。
 ペロっと舌先で舐め上げて、表情を窺う。僅かに眉を寄せて目を眇める顔が愛しい。
 幹を軽く握って先端を含んで小さく吸った。「あぁ……」と喘ぐ声が愛しい。
 歯を立てないようにして、注意深く口腔に迎え入れた。舌で包むようにしながら上下する。「ん、あっ」と声を上げて素直に腰をはね上げて喜びを示す彼が愛しい。
 はぐらかしたり、じらしたりするテクニックなんかなにもない。ただただ懸命に愛撫を繰り返す。遠藤君の指に力がこもって、こうだよっていうふうに誘導される動きに、黙って従う。
「あっ、そこ……っ」
 そう言われて括れの部分に舌を這わせながら吸い上げた。上手だよって誉めるみたいに頭を撫でられたから嬉しくて、やたらにそこだけ責め立てた。
「うっ、あ、も……でるっ、から、はなして」
 嫌だと咥えたまま首を振って、ますます強くしがみついた。
「だめだ、って……、こらっ」
 怒られた。でもやめるつもりはない。
「……あ、あぁっ、ミツルっ! あっ、ぁっ」
 遠藤君の腰が震えて、深く突き上げられた。むせないように顎の力を緩めて鼻で息をする。温かくて、青い精が口いっぱいに広がった。
 激しく上下していた呼吸が次第に鎮まっていく。全部を受け止めて、それからゆっくり体を離した。息を鎮めながら遠藤君が俺を見上げた。口元が少し緩んでいたから、本気で怒っているわけではなさそうだとほっとした。
 どうしようか、と思ったけれど、そのまま口の中のものを嚥下した。それを見た遠藤君が今度こそ本当に慌ててガバっと体を起こした。
「馬鹿っ! 出して! ほらっ」
 自分のシャツを差し出してここに出せと言われて、出せるはずがない。
「馬鹿はひどいよ……遠藤君」
 涙目で力なく見返した。けほっと小さく咳をしたら、腕を引かれて洗面所まで無理やり連れて行かれた。
「ほら、うがいして」
 うがいをする背中を摩られて、全裸の遠藤君が面倒を見てくれる。
「まったく……無茶をする」
 やりすぎた? 嫌われたかな……と、恐る恐る鏡越しに窺った。
「本当に、困った人だよ」と、鏡越しの遠藤君も笑い返して、頭にキスをしてくれた。
 後ろからそっと羽交い締めにされ、陶然と鏡に映った二人の姿を見つめる。胸の粒をくるくると弄られて「あ……」と顎が上がった。そのまま顎を押さえられて、二本の指が唇を割って入ってきた。くちゅっ、くちゅっと音をたてて抜き差しをされる。
「見て……」
 耳元で囁く声にぞくっとして仰け反る。
「さっきも、こんな顔してた」
 鏡に映った自分の顔は信じられないくらいにいやらしくて、思わず顔を背けようとしたのに、強い力で顎を押さえられているから動かせなかった。
「あ……ぁ……」
 閉じられない口から唾液が滴り落ちて顎を伝う。指が離れてホッとしていたら、その指でまた胸を弄られた。濡れた感触に、敏感になった粒が立ち上がって光る。
「はぁ……あ、ん、ぁんっ」
 感じているのを隠すなと教え込まれていたから、素直にその感覚に身を委ねた。そんな俺を遠藤君は満足げに眺めている。耳朶を甘噛みされてまた体が跳ねる。分厚い舌が入ってきて、グチュっといやらしい音がダイレクトに聞こえ、力が抜けた。その場に立っていられなくて思わず鏡に手を着くと、下から掬いあげるようにして体を支えられた。 
「欲しい」
 囁く声が苦しげに喘いだ。
「全部、欲しくなった」
「えん、ど……く……ぁっ」
 体を返されキスを受ける。今までの優しい、与えるようなキスではなく、激しく奪われるような口づけだった。
「急がないつもりだったけど、我慢できなさそうです」
 強く吸われて息が上がる。
「中、入りたい。だめ?」
 抱きしめられて、揺さぶられた。
 子供みたいに無邪気におねだりされて、嫌だって言えるはずがないじゃないか。




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