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明るいほうへ |
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ゆっくりと、鍛えられた美しい体が俺の上にかぶさって来た。 「本当は後ろからのほうが楽みたいだけど……顔が見たい、から」 俺も同じだ。俺を貪る彼が見たい。 「ゆっくり……力、抜いて……」 片足を抱えられて、少しずつ押し入ってくる感覚に、詰めそうになる息を意識して吐く。 ズっ、ズっとこじ開けられるような圧迫感が俺の中に広がっていった。すさまじい重量感だった。 「あ……っ……あ……」 開かれた足の間に大きな力強い腰が前へ前へと突き進んできた。 「う……あ……」 激しい呼吸と一緒に、遠藤君が声を発した。少し進んでは少し引き、また進んでくる。繰り返しながら確実に征服されていく。 「も……すこし」 俺も浅く呼吸を繰り返しながら、柔らかく迎え入れるように努力した。初めに感じた、引き裂かれるような痛みは少し治まっていて、中をいっぱいにされる圧迫感にパニックにならないようにと遠藤君に掴まる。 どこまで行くのだろうかと不安になったころ、ようやく最後まで到達したらしい。「はっ」と息を吐いて、遠藤君が動かなくなった。 「……やっべぇ……」 何かを我慢するみたいに苦しげに呻いて、そのまま動かない。 「……どうした? よくない、か?」 深く繋がった喜びが忽ち不安で一杯になる。大きく肩を上下させながら苦しげな呼吸が続いた。 「……逆……よすぎて……めちゃくちゃにしそうだ……」 ぶるっと大きく一つ頭を振るう。噴き出た汗が飛び散る様は、立髪を揺らす獰猛な獣のようだった。 「いいよ……めちゃくちゃにして……おれ……めちゃくちゃにされたい」 大きく見開かれた眼が俺を射すくめる。挑むように見下ろされて震えた。俺の中で彼の欲望がドクンと脈打って一段と力を増す。「あっ」と仰け反る喉に噛みつかれた。 突然爆発したように遠藤君が動き始めた。乱暴に突き上げられて本能的に逃げを打った体がずり上がるのを、許さないとばかりに腰を掴まれて引きずり降ろされた。 「あっ、あっ」 押されるように声が出た。腰が痺れて痛みを感じる隙もない。しっかりと肩を押さえこまれて動きを封じ込めながら深く抉られて嬌声とも泣声ともつかない音が喉から発せられた。指が肩に食い込んでいく。 「うっ、おっ、ああっ、あぁっ……っ……っ……!」 獣の咆哮のようなうめき声を上げて、強く二度、三度と穿ちながら、遠藤君が極みを迎えた。どっと大きな体が降って来て俺の上に圧し掛かかってきた。バクバクと波打つ心臓の鼓動が響く。ドクン、ドクンと俺の中に放たれるのを感じて体が戦慄する。 息を整えて重みに耐えていると、のしかかっていた体に力が入って、ふっと軽くなった。力を分散して俺にかかる体重を軽減してくれたみたいだ。乱れていた呼吸が少しずつ整っていく。心肺能力は頗(すこぶ)る高い。 「ごめん。あんな煽るようなこと、言うから、夢中になった。大丈夫、でした?」 尚も息を弾ませながら、それでも労わるように髪を撫で上げられた。夢中になったと言われて歓喜が込み上げてくる。あんな彼を見たのは初めてだった。俺の体に夢中になって我を忘れて激しく求められて、嬉しくないはずがなかった。 「大丈夫。……俺、よかった?」 今しがた最高の褒め言葉をもらったのに、もう一度確かめたくてこんなことを聞いてみる。喉元に顔を埋めたまま、ふっと笑う気配がした。 「……すごい、よかった。野坂さん」 「ん?」 「あんた……名器だ」 「っ……!」 ゆっくりと体が起きてきた。見下ろされる眼からは、先ほどの獰猛さが消えていて、いつものやさしい眼差しに戻っていた。 「名器って……男にそんなの、あるの?」 「ありますよ。だって、現にここにあるし。俺、こんな風になったことないですよ。自慢じゃないけど」 話しながら、ぐいぐいと中を探られた。 「あ、ちょっ、と、遠藤君!」 果てたはずなのに、俺の中の質量が減らないのはどういうわけだ? 「ね?」 って言われても、俺にはわかりません。っていうか、それ、どうするの? 「……まだ、いけそう?」 「え?」 体を引きながら、枕もとの箱に手を伸ばしている。 「なに? ……ま、まさか……あっ」 ズルリと一旦引き抜かれて「んっ」と呻いて、どっと布団に沈む俺の横で、二回戦目の準備をしている男がいた。 「嘘だろ?」 「一度道がついたから、次はそんなにつらくないですよね」 「いや、そうじゃなくて、マジで?」 「さっきは俺だけ夢中になっちゃったから。次はちゃんと野坂さんにもよくなってもらわないと」 「そんな、いいって、俺は……あっ」 ジェルをもう一度塗りつけられて、中を探られた。 「ん。大丈夫そうだ」 ぐいっと抉られて、遠藤君がもう一度入ってきた。成程、さっきよりもずっとスムーズに進んでいく。痛みもほとんどなかった。 両足を抱えられて、体を起こしたままの遠藤君が浅い所を突いてきた。何かを探っているみたいに、角度を変えて行き来する。 「……このへん……かな?」 「あっ……あっ」 「……ビンゴ」 「あっ……っ……あっ、い、いやっ」 「……じゃないでしょう?」 「んっ、あっ、あぁっ、……っぁ……っ」 さっき、指で探られた場所を執拗に責められた。すっかり大人しくなっていた俺のモノが何の刺激も受けていないのに、どんどん力を取り戻して勃ち上がっていく。震える先端からは露が沸き上がって俺の腹を濡らした。 「ほら……濡れてきた」 リズミカルに揺らされて、敏感な箇所を的確に責められて、それでも決定的な刺激を貰えずに俺の体はのたうった。 「あっ……っ……えっん、ど……く、っぁ……えん……どうっ、く、んんっ、んぁっ」 「ねえ、もっと?……どうしてほしいですか? ん?」 切ない。イキたい。遠藤君はそんな俺を上から見下ろしながらどうして欲しいかと答えを促す。 「……あっ、あっ、あっ……ぁ」 「言って、ミツル、してあげるから……」 ほら、と抉られて背中が大きく仰け反る。 「あぁっ! ぁっ、ま……、まえ、も……ぁ、さわ……っ」 「……まえ? こっちも? 後だけじゃ……イケない?」 「んっ、んっ」 必死に腰を浮かせて触って欲しいと哀願した。遠藤君の大きな手が俺の濡れた欲望を包み込む。 「ああっ!」 やっと貰えた快感にすぐにも弾けそうになる。後を穿たれながら、ゆるゆると前を刺激されて狂ったように腰を揺らした。 「気持ち……いい? ……いきそう?」 「んっ、い……い、んぁっ、いく……っ……あんっ……っ……あっ」 腕を伸ばして縋るものを探した。差し出された体に取りついて素直に官能の波に身を任せていく。 見つめられている。自分の与えている快楽に俺が狂っていく姿を確認しながら、もっと高いところへと導こうとしている。 視界のぼやけた眼を凝らして、連れて行ってくれと彼を見返した。ふっと微笑んで降りてきた唇が俺のそれと重なる。やさしく舐られて「可愛い」と囁かれた。 「んっ……ぁっ……」 視線と言葉と唇と掌と……すべての刺激を与えられて、やがて頂上へと連れて行かれた。 「……っ……ぁ……っ……」 溶けていく感覚。体が浮き上がるような心地よさ。 好きな人とのセックスがこれほど幸福なものなのだと初めて知った。彼だったからこそ得られた幸せだ。 「……よかった、ですか?」 やさしく頭を撫でられた。 「ん……」 満足げに微笑まれて遠藤君が俺から出ていこうとした。俺だけをよくしてそれでいいと思っているらしい。 「……あ」 「なに?」 「……だって」 ふっと笑って、宥めるようにしてもう一度頭を撫でられた。 「大丈夫ですよ。これでおあいこだから。ね」 大丈夫じゃない。余裕のある態度にちょっとむっとした。いつだってこうやって俺ばっかりが翻弄されている。これはおあいこじゃない。負けている。実は俺は負けず嫌いだったりする。子供っぽいともいうが。 行こうとする体を引きとめて遠藤君の逞しい腰に足を絡めた。遠藤君が吃驚して俺を見る。 「野坂さん?」 「……まだいやだ」 「え? あっ」 絡めた足に力を入れて、ぐいと押し付けて、出ていこうとした遠藤君を深く受け入れた。 「……もっと」 「うっ、わ」 存在を確かめるように締め付けると遠藤君が慌てた。遠藤君が俺の感じるところがわかるみたいに、俺だって彼の好きな場所を知っているのだ。 「こら、ダメですって……」 「なんで?」 「なんで……っ……って、あっ」 一番深いところまで迎え入れて絞めつけながら揺らした。中で小遠藤君が喜んでヒクヒクいっている。 「まったく……覚えがいい……ですね……っ……!」 だって、さっき褒めてくれたじゃないか。教えられたとおりにやっているだけなんだけど。 「名器……なめんなよ」 「くっ」と喉を詰めて、それから睨まれた。 「……知らないですよ……」 瞳の色が妖しく変わる。ぞくっとした。 「……あっ」 喰われる……。恐怖と期待がいっしょくたになる。それでもさっきのように俺を欲しがる彼が見たいのだ。やさしい遠藤君も大好きだけど、獣のようになった彼が見たかったから……。 「……ちょーだい……」 甘えるように遠藤君の唇に指を這わせる。親指でなぞりながら自らの唇も薄く開いて、チロチロと舌をひらめかせて誘う。彼が教えてくれた仕草だ。俺の誘いに遠藤君が魅入られたようにして貪りついてきた。 「……もっと、もっと……」 激しい律動が始まった。 ――長い、長い夜が訪れようとしていた。 |
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