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仰げば蒼し
7
 仕事の話題も俺が答える前に、今はこんなことをやっているなどと、俺の代りに答えている。
「なんだよ。お前には言ってないだろ。あ、遠藤も誘われたい? お前も来いよ。すげえ楽しいぜ。ね、野坂さん」
 うーん、寄せ書きは困る。だって今、僕の体は水玉模様だから。
「野坂さんは駄目なんだよ。俺も行かないし、ね」
「大丈夫だって。あ、俺ちゃんと野坂さんに酒がぶっかからないように守りますから」
「だからお前は守らなくていいの。だいたい一番先に落書きするだろ」
「そりゃあするさ。お約束だろ? 背中に秋元、ハートって。フジテレビのマークとか」
 秋元君、君は俺のことをなんだと思っているんだい?
「絶対駄目だ」
 俺の代わりに遠藤くんが答えて、戸部君が噴き出した。
「なんだよ、遠藤。お前は野坂さんのママか? ママなのか?」
 ……ママじゃないけど。
 戸部君が肩を震わせて笑っている。
「じゃさ、今度合コンに参加してくださいよ。俺セッティングしますから」
「それもだめだ。変な誘いはしないでくれ」
 腕組みをしながら遠藤君が秋元君の意見を全面却下している。
「なんだよ。今度はパパ気取りか?」 
 だいたい今日の飲み会だって遠藤君が自分が行かれないのは駄目だと言って、日にちを無理やりずらされたのだ。
 俺は二人のやり取りを冷や冷やしながら聞いていた。
 独占欲を丸出しにされて、嬉しいよりも秋元君に変に思われやしないかと気が気じゃない。あんまりあからさまなのは、困る。
「秋元君、俺、合コンとかは、ちょっとあれだけど、また飲もうよ。ね」
 せっかく話をうまくまとめようとしたのに「俺がいる時だけですよ」と遠藤君がまたもや余計なことを言う。
「だいたいさ。遠藤が全然合コンに参加しなくなったから、苦労してるんだよ。どうせお前はそんなものに出なくったって彼女ができるんだろうけどさ」
 秋元君がそろそろくさってきた。
「あー、そうだ。俺さ、この間大学関係の合コンに参加してさ、お前の学校の奴と飲んだぜ。もう、聞いてくださいよ、こいつ」
 くさった秋元君が報復のように遠藤君の学生時代の悪行を暴露しだした。
「もう、鬼畜ですね」
「キチク?」
「そう! 来るもの拒まずって、百人斬りの遠藤って」
「……すごいね」
「んなわけないだろ。お前、いい加減な情報流すなよ」
 遠藤君が憮然とした口調で言い返す。百人斬りは大げさだとしても、それに近いものはあったのだろう。もてることは知っていたし、別段不思議とも思わなかった。だってセックスも慣れていたし。
「とっかえひっかえで、女が切れたことがないそうじゃないか」
「……」
「それでさ、ひでえの。処女お断りだって。面倒くさいから」
 遠藤君の顔色が変わった。
「ふざけんなよ。俺、そんなこと言った覚えないぞ」
「やだねー、苦労を知らない奴って。いつか痛い目遭うんじゃないかって心配されてたぞ」
 たぶん、今遭ってるんじゃないかな、痛い目に。すごく動揺してるよ、遠藤君。
「や、でも、昔の話ですから。今はそんなことないですから」
 うん。前にちゃんと自分はもててましたって言ってたから大丈夫だよ。
 ただ……だから、俺のこともすぐに許してくれたのかな、なんてちらっと思った。
 遠藤君にとっては本当に犬噛まれたくらいの大した話じゃなかったのかな。          
「また、なんでそこで野坂さんに弁解してるんだよ、お前」
 秋元君が笑ってからかった。
「本当だよね。遠藤君、俺に別に弁解しなくてもいいから。俺、関係ないし」
 今の言い方はちょっとまずかったかも、と言ってしまってから気が付いた。遠藤君が一瞬絶句して、それからちょっと痛そうに顔を歪めた。
「秋元君、遠藤君いじめてもしょうがないよ。ほらほら」と宥めるようにキリンが皿に大量の草を乗せて手渡した。

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