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たったひとつ大切に想うもの
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 運ばれた病院で手当てを受けた。
 一番酷い怪我は左耳だった。殴られた時に鼓膜が破れたらしい。強く抑えられて暴れたから体中うっ血の跡が残っている。腕にははっきりと指の跡が刻まれていた。
 下半身は怪我がなかった。最後の最後で向こうもビビったらしく、入れられたのはほんの少しだった。
 見つけたのは俺のクラスの担任だった。最後の面談を終えて職員室に戻ったところ、自分の教室より先の部屋に明かりが点いていたので不審に思ったらしい。この日の面談は俺が本当に最後だったのだ。
 校内でのレイプ未遂事件で、鼓膜を破られるという怪我も負ってしまい、問題は学校だけで処理するわけにはいかなかった。警察も動いた。何より俺が吉沢だったことが事件を大きくしてしまった。校長は平謝りだったし、奴らの親は泣きながら謝罪をしにきた。俺にというより、じじいにだ。
 犯人たちの学校での処分は無期停学だった。義務教育だから、卒業証書はやるが、もう学校へは来るなということらしい。警察での処分はどうなったのかは知らない。五人は家族と一緒にこの地域から出て行くことを約束させられた。家も職も失ってどうするのか、そんなことは興味もないし、ざまあみろと思った。
 自分で奴らを殺すことはできなくなったが、俺の前から消えてくれてすっきりした。撮られた写メも犯行の証拠として取り上げられて日の目を見ることはない。それが例え外に出回ったとしても、どうってこともないと思っている。
 入院は一日だけだった。怪我のこともあるし、しばらくは学校を休むようにと言われた。破れた鼓膜はそのうち再生するらしい。通院の必要はあるが、生活は普段通りでいいと、ひどい目眩と耳鳴りは二、三日でよくなると言われた。
 もともと成績に不安があるわけではなかったから、学校からは何日休んでも構わないとお達しがあった。学期末だったし、出席日数も足りている。すでに噂が広がっていて、俺が行きにくかろうという配慮らしかった。別に何を噂されても構わなかった。
 じじいが高校は別の所へ行った方がいいんじゃないかと、変なことを言って俺を怒らせた。高校もほとんどメンツが変わらないからと、訳のわからないことを言う。だからなんだというのだ。全然そんなものは平気だ。
 そう言うとじじいはいつもの苦虫を噛み潰したような顔をした。
「お前がそういうふうだから事件に巻き込まれたんじゃないか?」
「は?」
「今回のことは、もちろんやった者たちに同情の余地はないが、そうなる土壌を作ったのが自分だということを、少しは考えなさい」
 言っている意味が分からない。あんな暴力を受けた俺を、自分の招いた種だと言っている。俺が悪いのだと暗に示唆しているのだ。
 家に戻って一日中部屋で寝て過ごす。耳鳴りがして、横になっても起き上がっても不快だった。耳鳴りの隙間にじじいの言葉が挟まって聞こえてきて、それが一番不快だった。
 一日のうち、何度も風呂に入って体を洗った。洗っても洗っても汚れが落ちた気がしなくて、肌が赤く擦り切れて、血が出るまで何度もこすった。
 体を洗いながら、奴らに笑われたことを思い出して、唇を噛む。可哀相と、言われた陰部をそっと手に持ってゆっくりと洗う。
 人に見られた事も、自分でいじった事も、もちろんない。そんなのは馬鹿なやつがやることだ。
 白く柔らかい皮に包まれたそれは、子供の頃から形状が変わっていない。風呂で洗うとき、少しだけ引っ張って汚れを洗い落とすだけだ。
 それ以外には触らない。絶対に触らない。
 誰とも比べることのなかったソレを五人の前で晒されて、その上笑われた。
 何かおかしいのだろうか。
 誰にも聞けないし、知られたくなかった。





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