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たったひとつ大切に想うもの
15

 送って行くというのを「いい」と邪険に断って、自分の家に帰ってきた。歩いて五分とかからない距離を送られるほど子供ではない。
「そうか。気を付けてな」と頭に手を置かれて、いつものようにキスをしてくるのかと思ったが、俊彦はそのまま俺から離れた。「別にこれぐらいなら許可はいらないけど」などと思ったが、自分から言ってしまった手前言い出せなかった。
 何となく体全体が熱っぽくて、夕飯も雪野に言って部屋に持って来てもらって、その日は自分の部屋から出なかった。
 ベッドに潜って俊彦とのさっきのことを思い出す。
 自然と手が股間に伸びていって駄目だと思うのに止まらない。
 俊彦の息の熱さを首筋に感じて、触っていたモノが同じような熱を持つ。「んん」と洩れる自分の声を枕に押し付けて殺した。嫌だ嫌だ、汚いと思いながら手が意志とは別に動いてしまう。やがて、目の前に白い閃光が走って、背中をのけぞらせながら手の中に生温かいものを放つ。
 呼吸を整えてティッシュで拭きとろうとして、息をのんだ。
 ペニスが異様な形をしている。いつも風呂に入って洗うときだけ出していた先端が大きく顔を出していた。白く柔らかかった皮の下から覗いたそれは、赤黒くてグロテスクで自分の物なのに正視出来ないほど醜かった。それの先端がはき出された液体で濡れている。ティッシュで拭きながら、えも言われぬ嫌な気分に陥った。
 自慰という行為をしたのは初めてだった。こんなのは、いつもいやらしいことを考えている頭の悪い連中がすることだと、ずっと考えていた。自分の性器を触って昂るなんて、それで手の中にこんな汚いものを洩らすなんて、信じられない。自分がひどく汚れてしまったようで居たたまれない。
 俊彦もしているんだろうか。俺のことを考えながら、さっき俺にしたようなことを想像しながらやっているんだろうか。考えたくなかった。
 誰にも言えずに悩んでいることがある。
 小さい頃からたまに見る嫌な夢は今でも時々見ていた。何かに追いかけられて泣きながら逃げる夢だ。
 だけど、最近は別の夢の見るようになっていて、そっちの方が嫌だった。
 寝ている時に、たまにいやらしい夢を見て、起きると下着が汚れているのだ。
 さっき自分の手に放ったものと同じものが出て、下着を濡らす。中学に入ってすぐくらいの頃から時々そうなってしまう。パジャマも下着も見つからないように捨てて、新しいものを買った。じじいにも、雪野にも、もちろん俊彦にも言えない。
 病気なんだろうか。やっぱりあの家政婦が言ったように、俺にもあの女の淫乱な血が流れていて、そうなってしまうんだろうか。セックスがしたくて裸足で外を歩き回るようになってしまうんだろうか。
 嫌だ。絶対にそんな風になりたくない。







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