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たったひとつ大切に想うもの
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 夏休みが終わって、日常が戻ってきた。
 周りが夏の浮足立った雰囲気から一変、受験一色に変わっていた。馬鹿話に花を咲かせていたクラスメートたちも、休み時間に口にする話題は模試の結果や、参考書の話が多くなっていった。
 俺の日常は変わらない。
 起きて支度をし、学校へ行き授業を受け、帰って部屋でまた勉強をし、眠る。学校では変わらず森や、たまに小野寺洋子と会話を交わし、同じ大学を受けることになったらしい二人の少し近くなった距離を黙って見守りながら日々を過ごした。
 俊彦とはあれから会っていない。連絡もない。一度、「冬はどうするんだ? いつ帰ってくるんだ」と送ってみたが、返信は来なかった。
 俺は気持ちを切り替えた。
 大学へ行ったら。
 向こうへ行って俊彦と会うようになったら、きっとまたもと通りになれると思った。合格して、俊彦の近くでまた一緒にいれば、俊彦もまた前のように俺の傍にいるようになるだろう。
 だって、約束したのだ。ずっと一緒だと。
 今、俺を支えているのは、あの時に交わした約束だけだった。
 もし俊彦が俺にしたことを凄く気に病んで、俺から遠ざかっているのなら、もう気にしていないと言ってやろうと思っていた。そう言いさえすれば、俊彦だって悪かったって謝ってくるだろうと信じていた。  
 だから必死に勉強をした。俊彦にもらった参考書を何度も何度もさらって、模試を受け、参加できるゼミにもすべて参加して、万全な対策で受験に臨んだ。
 合格するんだ。
 合格して、俊彦と同じ大学へ行くんだ。
 行けば、きっと元通りになれる。
 今は少し距離が離れているけれど、俊彦は絶対に約束を破らない。






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