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たったひとつ大切に想うもの
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 吐息が肌に掛かって、俊彦が声を出しているのが分かる。
 その声が聞きたいと初めて思った。俊彦の僕を呼ぶ声を、僕に触れながら漏らす声を聞きたい。
 膝の内側に移った俊彦の顔を捕らえ、その首もとに手を添えた。ため息と共に、喉が震えて俊彦の声を感じた。僕に触れながら、俊彦もまた感じて声を出しているのが嬉しかった。
 一旦顔を上げて、俊彦がまた、僕にお伺いを立てるように見つめた。何をされても構わなかったから、その瞳を見つめ返して「いいよ」と言った。
 内腿に当てた唇が強く皮膚を吸って、ズクリとわずかな痛みが走る。ペロペロと舌先で軽く擽られ、離れたそこには小さな赤い花が咲いていた。反対側にも同じものを付けようと、俊彦の体が滑る。足を持ち上げられ、同じようにきつく吸われて、また舐められた。
 自分のものを握っていた手を外されて、濡れた掌も舐められた。それから、僕の手を濡らした根源に顔を寄せると、優しくそっとキスをされた。
「あっ……ん」
 蜜のあふれ出る鈴口に口づけて、柔らかい舌が先端を嬲る。這わせた大きな手がすっぽりと包み込んで幹を撫でる。
 薄い皮膜をそっと撫でるように剥いていく。
 露わになった先端を優しく舌がまた撫でて、少しずつ、少しずつ、晒されてく。
「あっ、あっ、あっ」
 空気に触れただけで戦くそれを、優しい舌が包んでいく。包み、なぞられ、完全な形にへと、俊彦の舌と掌で育てられていった。
 俊彦の動きに合わせるように声を上げながら、自然と腰が揺れる。
 俊彦は嬉しそうに笑って、今度はゆっくりと口腔へ僕を含んでいった。
「ああ……っん、ん」
 奥深くまで飲み込まれ、強く吸われて、思わず俊彦の髪に指を差し込んで強くかき混ぜた。汗ばんだ地肌から、俊彦の声が響いてくる。俊彦も声を出している。
 柔らかいけれど、鋭い刺激に、すぐにも弾けそうになる。自分以外に触られたことも、こんな風に含まれたこともない。
 ゆっくりと上下される頭の動きに翻弄される。ぐっと奥まで包まれて、吸い付きながら引かれると、追うようにして腰が浮き上がり、それに応えるようにしてまた深く飲み込まれる。包まれながら舌先は別の生き物のように蠢いて、先端を抉り、ざらついた舌全体でなぞり上げられて、今度はそれに反応して背中が反った。
「ぁ……、としひ……っ……、も……ぁ、もう……」
 我慢することも、はぐらかすことも出来ずに、力の入らない指で俊彦の髪を引きながら、終わりが近いことを知らせようとしたが、俊彦は離してくれなかった。
 先端近くを浅く咥えて、敏感な笠の周りをぐるりとなめ回され、悲鳴のような声が上がる。早くなる動きに呼応するように息が吐き出され、もっとと促されるように幹を包んだ掌で擦り上げられた。
「あ……もう……で、だめ……としひ、こ……でるっ、あっ、あっ、出る、出るっ、あ、あぁっ!」
 のけぞった頭が後ろにあったベッドに沈んだ。大きく息を吐いて、俊彦の中へと放たれる。
「はっ……、ぁ……んん、っ……、んうぅっ、んっ」
 いきなりの解放に放心したように、俊彦の動きに合わせて腰を揺らした。俊彦は強く吸い上げながら、ゆっくりと僕の腰を掴んで揺らし続けている。
 喉元に触れると、揺れながら「ん、ん」と声を上げているのが分かる。僕の放ったものを飲み下しながら、俊彦も声を出して感じているようだった。
 喉をふるわせ続ける俊彦が愛しくなって、その頬を撫でながら顔を見つめる。僕の精を飲まれて、恥ずかしかったけれど、嫌じゃなかった。僕も俊彦に同じ事をしてあげたいと思った。
「俊彦」
 なおも離したくないと、僕を口に含んだまま俊彦が見上げてきた。優しく目を眇めて、愛おしそうに僕を愛撫し続ける。
 全てを飲み尽くし、清めるように舐め上がられて、ようやく俊彦の唇が離れた。
 腰に巻き付いていた手が離れるのを待って、体を起こそうとする俊彦の下へ自分から滑り込んでいった。
「陸」
 見下ろされて、微笑みながら首に腕を回してギュッと抱きしめる。浮いた体を俊彦が抱き返してくれた。
 大きな胸に包まれて、ここは僕の場所だとはっきりと教えてくれる。
 足りなかったものが満たされて、きれいな形に形成されていくようだ。
 僕のものを全て飲んでくれた唇をペロッと舐めた。どんな味がするのかと思ったからだ。ペロペロと犬のように舐めながら、もう一度俊彦の口腔へ入り込み、味わってみる。苦く、青い味が、俊彦の唾液で甘くなっていく。沿わせた掌に俊彦の声がまた響いてくる。「ん……ん……」と喘いでいるような声を感じた。
 キスをしながら左手を這わしていって、俊彦の下着の上から触れた。
 僕よりもずっと大きなそれは、僕の手を押し返すように固く、膨張している。ゆるゆると舟形に形造った掌を動かすと「は……」と俊彦が吐息を漏らした。







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