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さよならの前に君に伝えたかったこと
11

 圭吾の部屋だ。
 一旦帰宅して、吉川にはここへ来てもらうことにした。人目のあるところで三人で話をするのは難しい。ここならゆっくりと気がねなく話せる。
 吉川を待つ間、俺はどんなふうに話そうかと頭をフル回転させて考えた。圭吾はずっとそわそわしている。吉川の奴が指なんか差すもんだから、俺の存在を強く意識しちまって、落ち着かない様子だ。
 そりゃそうだろうと思う。俺だって気持ち悪い。自分の気がついていない所で、ずっとそばにいたなんて言われたら。
 俺は圭吾の傍から離れられないから、事前に吉川と打ち合わせをすることも出来ない。俺の言葉をどんな風に通訳してもらえれば一番いいのかを、ずっと考えていた。
 正直に全部を話さなくてもいいと思う。
 例えば、圭吾が俺を思い出す時に俺はここにいられるわけだけど、そのまま伝えると、圭吾がずっと俺のことを考えるようになってしまう恐れがある。現に間隔が開いていた暗転の時間が、昨日から一度もやってこない。これは圭吾にとって良くないことだと思う。俺にとっては嬉しい時間だけど、でもやっぱり俺は死んだ人間で、圭吾は生きているんだ。あいつの時間を独占しちゃいけない。
 ただ伝えたいだけなんだ。
 お前は俺の大事な友達で、お前といられてとても幸せだったこと。
 俺が死んだのは、俺の不注意なだけで、お前が気に病む必要は全然ないんだってこと。
 バスケを辞めたいっていったのは、半分は嘘で、半分は本気で、でもそれは、もっとずっと、ずっと長くお前と一緒にいたかったからだってこと。
 喧嘩の原因は、俺が単にサエに焼きもちをやいただけで、お前は本当に何も悪くないだってこと。
 だから、ごめんな。つらい荷物を背負わせちゃって、ごめんなってずっと言いたかったってこと。
 圭吾がアルバムを出してきて眺めている。部活ばっかりだったから、二人きりで写ったものは少ないけど、それでも合宿の時や、修学旅行の時の写真がある。俺のアルバムは高二のあの日で終わってしまったけれど、圭吾のアルバムはこれからも増えていく。
 圭吾の隣りで一緒にアルバムを眺めた。大勢で写っていても、必ず二人は隣合わせで、肩を組んだり、腕を組んだりしてVサインをしている。
「祥弘」
 なんだ?
「祥弘」
 なんだ? 圭吾。俺はここにいるぞ。お前に聞こえなくても、呼べば必ず返事をしてたぞ。
 お前が俺を思い出してくれる限り、こうやっていつでも一緒にいたんだからな。


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