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さよならの前に君に伝えたかったこと
17

 二年の夏休みを過ぎてから、急に部活を始めた俺を、先生もクラスの奴らも、バスケ部員すらも不思議がった。
 そりゃそうだ。俺だって吃驚している。でもやってみたかったんだ。別にいいだろ? やりたかったんだから。俺って割と成績優秀だから、部活をやったぐらいで成績が下がるとも思えないし。
 別に急に熱血になったわけじゃない。相変わらず親とも口はきかねーし、クラスの女子にも「鉄面皮」なんて陰で言われているのも変わらない。
 でも、変な雄たけびを上げながらコートを走って汗を流したりして、対抗戦でシュートのアシストを決めて、ハイタッチなんかしちゃうのも、なんとなくいいじゃーん? なんて思うようになった。
 俺ってば、ちょっと真剣になれば割と何でも標準のレベル以上いっちまうから、即レギュラー? なんて思ってたけど、結構これがなかなか奥の深いもので、今は控えの三番手ぐらいだ。まあ、秘密兵器っつうやつだな。うん。
 今日は卒業した伝説の先輩が練習を見に来てくれるっていうんで、引退した三年まで練習に参加している。
 なんでも学校始まって以来の凄い選手で、もう少しで全国へ行けたんだって、先輩が自分のことでもないのに自慢をしていた。すげえカッコいいんだって。
 そう言われてもなあ、俺、あいつが泣き虫なの知ってるし。
 伝説の先輩を一目見ようと、バスケ部以外の人間も体育館に集まって来ている。
 ドリブルしただけで、「キャー」とか言うなっつうの。あんなもん誰だって出来るだろうが。
 まあ無理もないか。
 教育実習期間が終わり、学校から出て行くときは、両手に紙袋ぶら下げてたもんな。プレゼントでいっぱいの。
 調子こいてダンクシュートなんか決めてやがる。
「キャー」が、「ギャー」に変わっている。
 はいはい、素敵ですね格好いいですね。
 でも泣き顔はすげえんだぜ、あの伝説の先輩は。
 おんおん泣きながら、人に抱きついてくるんだぜ。 
 別にそれをネタに脅そうってつもりもないし、そんな姿を俺一人が知っているからって、別にどうでもいいことなんだけど。
 心の中で悪態を吐きながら、他の奴らと一緒になって、圭吾を目で追っている自分に気がついて、舌打ちが出る。
 なあ、祥弘。恨むぞ。
 全くお前も、とんだ置き土産を残していってくれたものだ。


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