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さよならの前に君に伝えたかったこと
18

 あれから祥弘には会っていない。あいつは消えた。本当に。
 シカトする約束は破るつもりはなかったけど、幽霊の割にちょっといい奴だったから、姿が見えなくて、少なからずがっかりした。
 でも、完全に消えたかというと、それが微妙なところだ。
 何故なら何となく、何となくなんだけど、いるような気がするんだ。どこかに。
 初めは祥弘が見たかったから圭吾の周りをうろちょろした。
 いつになっても会うことがないから、完全に昇天しちまったのかなって、諦めたんだけど、なぜか圭吾の周りを俺はうろちょろするのを止められなかった。
 学校に来ている間中、圭吾が何処にいるのか探しちゃったし、実習の期間が過ぎて学校へ来なくなったら、今度はあいつの家にまで行くようになっていた。理由はその度に違ってたけど。勉強教えてとか、バスケやってみようかなの相談だとか、別になんでもないんだけどさちょっとね、とか。
 自分でも分からない。だけど、圭吾の顔を見るとなんかこう、体の奥の方がぎゅっと絞られるような感覚に襲われて、これって、あれだよな、みたいな。なんだかわかんないけど、やっぱ、あれだよなって感じだ。
 でも、これは俺の感情なのか、別の何かなのかがわからないんだ。
 圭吾は圭吾で迷惑な顔も見せないで、俺と一緒にいる。
 時々、俺の顔をじっと見て、俺の瞳の奥を覗いて何かを捜している。
 俺の中の別のものを捜している。
 何を捜しているかは一目瞭然で、そんな圭吾の必死な顔を見て、俺はまた心臓を掴まれたような痛みに苛まれる。
 出来ることなら俺だって会わせてやりたい。
 圭吾がどんなにそれを望んでいるか知っているから。
 どれだけ強く祥弘のことを想っているのかを一番知っている。
 だけど、圭吾の望みを叶えてやることが出来ない。
 俺の顔を覗く圭吾は、俺自身を見ていない。そんなのは分かっている。
 それなのに、俺の胸は痛みながらもドキドキして、なにやってんだよって舌打ちしたいくらいに跳ね上がって、だけど結局、俺がドキドキしようが泣きそうになろうが、圭吾が望んでいるのは俺じゃないっていう事実に、またズキンと胸が痛むんだ。
 祥弘が俺の中に入ってきたとき、あれは俺にとっても初めての経験だったんだけど、祥弘の圭吾に対するひたむきさっつうか、愛情というか、そういうもんが一緒に中に流れてきて、それが完全に俺とシンクロした。
 その感情が今も俺の中に残っていて、だからやっぱり祥弘はいるんだと思う。
 あれほどの強い感情を持ったことはない。馬鹿みたいに真っ直ぐで、圭吾のことばっかり考えていて、圭吾が楽になるようにって、自分の望みなんか二の次だって、圭吾、圭吾って、そればっかり考えていて。
 そんな祥弘なのに、あいつは俺に生きろって言った。
 俺の中に入り込んで、もし俺だったら「ラッキー、このまま乗っ取っちゃえ」って、きっと思うだろうに、あいつはそうしなかった。  
 俺が親切にもそれでもいいよって、言ってやったのに、祥弘は逆に説教なんかしやがった。
 本当にあの時、祥弘がそんなに圭吾が好きなら、体を渡してやってもいいと思ったんだ。俺よりずっと、祥弘の方が生きたいと願っていた。
 だけど、祥弘は俺に生きろって言った。
 化けて出るぐらいの未練を作って、懸命に生きろって言った。
 そして、俺にこんなやっかいな置き土産を残して俺たちの前から消えたんだ。

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