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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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俺と一緒に足を止めた圭吾は、黙ったまま俺を見つめている。 「なんだよ。行かねえの?」 動かない圭吾にそう言った。 「いや。最近顔見せないなって思ってさ」 圭吾が学校に来ていた頃、その後も、夏休みの間中も、俺はしょっちゅう圭吾の周りをうろちょろしていた。 「そりゃ、学校あるし、部活終わればこの時間だし」 「そうだな」 「なに? 俺に会いたいってか? だっせー」 どうせ会いたいのは俺じゃないくせに。 「まあうまくやってるんなら、それでいいよ」 先生面していっぱしなことを言っている。ただの教育実習生だったくせに。 「別に。適当にやってるよ」 「そうか。ならいいんだけど」 何を心配して、なにが「ならいいんだけど」なのか。 別に。 関係ないし。 どうだっていいし。 いつものように、口に出さずに毒づいている俺を、圭吾がじっと見つめてくる。 また捜している。 俺の中の祥弘を、懸命に捜している。 「いたか?」 「え?」 「祥弘、いたか?」 「……ごめん。そうじゃないんだ。でも、ごめん」 「いいよ。別に。俺だって中にいるんなら、出してやりてえよ」 「孝介」 「マジで。俺も会いたいもん、あいつに」 自分の中にいる祥弘を、俺だって捜している。捜して見つかれば、圭吾に会わせてやれる。 俺の中に祥弘を見つけたら、こいつはどんなに喜ぶだろう。 そして、あのときみたいに俺を抱き締めるんだろう。 抱き締めて、真剣な瞳で、俺に「好きだ」って言ってくれるんだろう。 俺自身じゃない、俺に向って、圭吾はありったけの愛情を向けてくれるんだろう。 「……なあ、キスしてみよっか」 俺の瞳の中を捜し続けている圭吾に言ってみる。 「いるような気がするんだ」 圭吾の目が僅かに見開いた。 「本当か?」 「うん」 暗い路地。人の通らない道の隅で、圭吾が俺の肩を掴んだ。 近づいてくる唇を、目を開けたまま迎えた。 圭吾も目を閉じなかった。 静かに触れる唇。 圭吾の唇が、俺の上に重なっている。 柔らかくて、温かくて、愛しい唇が合わさって、何故か俺は笑えてきた。 なあ、祥弘。 お前が消える瞬間、ちゃんとキス出来たか? ちゃんと圭吾の気持ちを受け取って、消えていけたのか? お前の圭吾はまだこんなにも、お前のことが好きなんだぞ。 俺の馬鹿みたいな誘いに簡単に騙されるほど、まだお前に逢いたがっているぞ。 馬鹿だな。 本当、馬鹿らしくて笑ってしまうほど、圭吾の中はお前で一杯なんだぞ。 どうしてくれるんだよ。 圭吾の馬鹿さ加減と、そんな馬鹿に付き合ってやっている自分の馬鹿さ加減に笑いが込み上げる。 それなのに、唇を離し、俺の頬を撫でた圭吾の掌が湿っていた。 なんでだか濡れている俺の顔を見つめ、圭吾の唇が動いた。 「……祥弘」 ああ、ほら。 本当、こいつ馬鹿だ。 「祥弘、祥弘」 ぎゅっと抱き締めてくる圭吾の体に腕をまわす。 「……圭吾」 そして俺はきっと、こんな馬鹿な圭吾を上回る、大馬鹿なんだろう。 |
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