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さよならの前に君に伝えたかったこと
24

 いつもは大勢で行くラーメン屋に今日は二人で入る。
 部員でギュウギュウ詰めになって座るテーブルに、向かい合って座った。
 圭吾はいつもと同じスタミナラーメンを頼み、俺はチャーハンと餃子を注文した。
 弁当を食べようと思っていたから米の飯が食いたかったし、最近パンとか麺類ばっかりで飽きがきていた。たまに自分で作ってみようかなんて思うこともあるけど、家に帰ると面倒が先に立ってしまう。
 制服は出しておけばクリーニングには持っていってくれるし、シャツは洗濯籠に入れておけばいつの間にか干してある。
 それを勝手に取り込んで黙って着ている。
 金はもらえるから、食べ物も着るものも勝手に調達している。
 そういう点では不自由がないが、三年になって増えた提出物や試験の申し込みなんかも一人でしなければならないから、これがけっこう大変だ。
 提出が遅れて家に連絡がいくのが嫌だから、そういうのに気を遣うし、はっきり言って面倒だ。
 でも卒業して一人暮らしになったら、どうせ全部自分でやることになるし、自炊もやれば出来るんじゃね? なんて軽く考えている。圭吾を見ていると、大学生って本当暇そうに見えるし。
「圭吾ってさ、実家だろ? 飯自分で作ることなんてあるのか?」
「めったにないな」
「だろうな」
 実家にいるならそんな心配もないだろう。身の回りの世話も全部母親がやってくれる。普通の家ならば。
「孝介は作るのか?」
「いや、俺も作らない」
「だろうな」
「でもほらさ、一人暮らし始めたらやんなきゃならないじゃん」
「まあ、そうだな」
 注文したものがやってきて、しばらくはお互いに無言でそれらを頬張る。
 人心地ついて水を飲むと、先に食べ終わっていた圭吾が話の続きを始めた。
「孝介はどのへん受けるの? やっぱり東京のどっか?」
「いや。長野か北海道」
 俺の答えに圭吾が目を見張った。
「またどっちも寒い地方だな」
「沖縄でもいいけど」
「脈絡ないじゃないか。なんで?」
「別に。なんとなく」
 人の多い場所には行きたくなかった。
 まあ、どこに行っても見えるものは見えるし、それ自体はもう慣れているからどうってこともなかったけど、やっぱりぐちゃぐちゃしたところは嫌だと思っていた。
 いま俺の住んでいるところから出来るだけ遠い所って考えた結果の候補地だ。どこだって構わない。こっから出られるなら。そして遠くに行けるなら。
「ふうん」
 テーブルに置いてあるピッチャーから水を注ぎながら圭吾が相づちを打っている。
 周りの連中だってたいした高い志を持って行き先を選んでいるわけでもなさそうだ。学力に合わせ、行けそうな場所。それなりに分相応でそれなりに居心地のよさそうな場所。
 それだけだ。


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