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さよならの前に君に伝えたかったこと
26

「教育実習で学校来たとき、お前、本当にやる気なさそうでさ。何にも興味ありません、って顔してた」
 去年の話を懐かしそうに圭吾が語っている。
 あの頃は本当にそうだった。
 まあ、今もそんなに変わったってわけでもないんだけど。
「けどさ、今はほら、真面目に部活やって進路も真面目に考えてるわけだろ? 投げやりな気持ちでは続かないと思うけどな。お前、頑張ってると思うよ」
「別に……」
 つい口を吐いてしまった口癖にハッとして、もごもごと次の言葉を飲み込んでしまう。
 圭吾に指摘されたからって、俺の口癖が嫌だって言われたからって、なんで俺がそれを直さなきゃならないんだよって思うのに、言ってしまってからハッとしてしまった自分が忌々しい。
 そりゃ、去年に比べたら、多少は変わったと俺だって思う。部活を始めて担任は喜んだし、バスケの連中と毎日のように放課後飯を食うようになってもいたし、クラスメイトとも多少は話すようにもなっていた。
 教室でときどき馬鹿笑いをしている自分に気がついて、驚くことだってある。
 途中から入った部活だけど、特にやりにくいってこともなかった。
 先輩に時々小突かれたりしたけど、俺だけがやられていたわけじゃない。
 気まぐれで始めたバスケだけど、試合に出られなくてつまんないから辞めようとは思わなかったし、それに今は最高学年になって、それなりの責任感だってある。
 それを頑張ってる、なんて先輩面されて褒められて、勝手に安心されて、どんな顔をしていいのか分からない。
 人に褒められるほど頑張っているつもりなんか全然ないし、投げやりだって言われればその通りだって思う。
 ただ、
 祥弘が言ったから。
 俺が体を明け渡してもいいよって言ったときに、あいつは言った。
 自分は死んで、俺は生きているんだから、だから生きろって。
 化けてでるくらいの未練を見つけて生きてみろって言って消えてったから、俺もちょっとは頑張ってみようかなって思ったんだ。
 本当はどうだってよかった。
 このまま生きていても、なんも面白いことはないし、死んじゃってもいいやって思っていた。
 幽霊に説教されて生かされてるのって、たぶん俺ぐらいなんじゃないかなって思う。
 祥弘の代わりに、なんて涙ぐましいことも、命が大切だなんていう高尚なことも全然考えちゃいないけど、でも、じゃあ少しは頑張ってみようかなって思うぐらいには、俺だってあいつに感謝をしている。
「ま、貴重な高校生活だ。一生懸命楽しんで、歯を食い縛って頑張れ。そんで、その口癖、気をつけろよ。な」
 柄にもない説教なんか垂れられても全然説得力なんかなかったけど、俺は憮然としたまま頷いた。


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