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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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荷造りを終え、がらんとした部屋を見回して、残されたベッドにどっかりと腰を下ろした。 物心ついたときからずっと住んでいた、ささやかな俺だけの空間。 ベッドも勉強机も残していくけど、俺がここに帰ってくることは二度とない。 真面目に取り組んだ甲斐があって、俺は明日、新しい土地へ行く。 最終的に俺の選んだ先は、長野にある大学だった。 学部はどういうわけか、教育学部。 どういうわけっつっても、自分で選んで受験したわけだから、どうもこうもないんだけど。 お前が先生になんかなれるのか、っていう疑問は俺自身持ってるし、まあ、教育学部に入ったからって教師になるかどうかもまだ分からない。 でも一応どこ行くにしても、進路は決めなくちゃいけないから、結局は身近な参考人物に倣ったっていうのがある。 圭吾に出来るんなら俺にも出来るんじゃね? みたいな。 それにあいつ。 あいつだったらどうしたかな、なんて考えもあったのかもしれない。 祥弘が俺の中にいることってことはないんだけど、あいつが過ごせなかった高校生活を過ごし、あいつが行きたかった未来を考えるとき、なんとなく、向こう側であいつが笑っているんじゃないかって。 あいつの代わりに生きようなんて気持ちは、今だって毛頭ない。 だけど、何かを決めようと思うとき、やっぱり祥弘のことを考えている俺がいる。 未練はまだ見つからない。 だけど消えることが出来ない俺は、見つかろうと見つかるまいと、前に進まなきゃいけないんだろう。 俺の体をもらわずに消えてったあいつに「やっぱりもらっとけばよかった」って言われないぐらいには、いろいろ頑張らなきゃいけないんだろう。 まとまった荷物はすでに昨日、引っ越し屋が持っていってくれた。 学生が多く住んでいるっていうコーポを契約し、最低限の家具も手配済みだ。 あとは向こうに行ってから少しずつやっていけばいい。 費用に関しては、幸い親が全部賄ってくれた。向こうへ行って落ち着いたら俺もバイトをするつもりだけど、授業料もちょっとした生活費も出してくれる。 まあ、親としてはそれぐらいの義務はあるだろうし、恐怖の対象が目の前からいなくなるんだから、喜んで金なら出しましょうってところだろう。 だから俺はそのお礼に、明日の卒業式を終えたら、すぐにこの部屋から出ていく。 俺ってば親孝行だろ、なんて思ったりして。 卒業式を終えて、最後まで席を置いたバスケ部の送別会を終えたら、ここから永遠にバイバイだ。 親とも、ちょっとは慣れ親しんだ学校の連中とも、圭吾とも。 明日になれば俺はいなくなれる。 ずっと望んでいた遠くへ行くことが出来る。 清々しい気分で窓を開け、青々とした空を見上げる。 雲一つない青空が頭上に広がっていた。 まだそっちには行けそうにねえなあ、祥弘。 やるって言ってんのにいらないって突っ返された命だ。 せいぜい楽しんで生きていくことにするよ。 お前の分までなんて、絶対に思わないけど。 いつかここから投げ捨てたペットボトルはなくなっていた。 狭い前庭にしばらく転がっていた水の入ったままのボトルは、風に飛ばされたのか誰かが拾って捨てたのか、いつのまにか消えていた。 |
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