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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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じゃな、バイバイな、といつもと同じようにさよならを言い、明日にでもすぐに会えるような気軽さで教室を後にした。 靴を履き替え、バスケ部の部室のある旧校舎に行こうと渡り廊下を歩いていたら、廊下の先に父親と母親が並んで立っていた。 卒業式の最中に俺を襲った怒りも混乱も、今は収まっていて、俺はいつもの無表情で二人と向き合った。 まっすぐに目を見ると逸らされるのを知っているから、体を向けたまま、顔だけ他所を向いて。 「卒業おめでとう」 何年振りかで聞く父親の声にもなんの感慨も湧かない。ああ、こういう声だったっけ、なんて思いながら「ありがとうございます」と横を向いたまま答えた。 受験をするときに、親のハンコやら記入やらがどうしても必要だったから、必要最低限の会話を母親ともした。 費用のこともあるから、父親に相談もしたのだろう。それで二人で話し合って、卒業式ぐらいは出てやるか、なんてことになったのか。 俺が生まれなかったら、別れずにすんだかもしれない夫婦だ。 「まっすぐに帰るんだろう?」 時計に目を落としながら父親が聞いてきた。 「いや。これから部活の送別会がある」 時計から目を上げてこっちを見る顔が驚いていた。俺がなにかの集まりに参加するってことが驚きだったらしい。 「そうか。一緒に食事でもと思っていたんだが」 はあ? 声には出さなかったけど、あからさまに「なに言ってんの?」ってのが顔に出た。 父親はそんな俺の顔を見て、苦い顔をして笑っている。 「まあ、そうだよな」 本人にも自覚があるらしい。今の言葉は俺たちにとっては「明日地球が滅亡します」っていうくらいの衝撃的なものだったからだ。 「その送別会っていつ終わるんだ?」 「さあ」 終わるまで待つつもりなのか、まだそんなことを聞いてくる父親に素っ気なく答えた。 本当に終わる時間なんか知らなかったし、時間が分かったところで一緒に飯なんか食うつもりもない。 それに送別会が終わったら、俺はすぐに荷物を持って出ていくから。 「部活ってなにしてたんだ?」 尚も質問をしてくる父親を黙って見返した。 なんでそんなことを聞いてくるのかが分からない。だいたい知ってどうなる? 俺に見つめられた父親は、また困ったように苦笑している。 「情けない話だよな。息子が何部に入ってるかも知らないんだから」 「……バスケだけど」 ほお、と目を見開いた顔から目を逸らし、横を向いた。 いまさらそんなことを知ってどうするんだ。 今知ったところでなんにもならないじゃないか。 試合のひとつも観に来なかったくせに。 だいたい会いにも来なかったくせに。 「時間ないから」 横を向いたままそう言って、一歩足を踏み出した。 今さら話すことなんかなにもないし、早くここから立ち去りたかった。 何しに来たのか知らねーけど、何考えて待ってたのかも知らねーけど、もう用事は済んだんだろ。 親の振りして式に出て、親みたいに気に掛ける素振りを見せて、一応体裁は整っただろうと思った。 今日の式と同じ、全部が全部、体裁で固めた様式美だ。 |
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