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さよならの前に君に伝えたかったこと
35

 バスケ部の部室に入った途端、けたたましくクラッカーが炸裂し、感極まった後輩が俺に抱き付いてきた。
「吉川先輩! 好きです!」
「はあ? なに言ってんの? 離れろよ」
 いきなり気持ちの悪い告白を受け、俺よりデカイ後輩の腕を振りほどくと、周りで爆笑が起こった。
 送別会の準備はすでに整っていて、遅れてきた俺を待っていたらしい。
 卒業生が揃って前に並べられ、盛大な拍手に続き、またクラッカーが鳴らされた。
 ジュースとサンドイッチなんかの軽食が振る舞われ、卒業を祝われる。
 去年卒業したOBも数人来ていて、そこには圭吾の姿もあった。
 部室でしばらく歓談をしたあと、卒業生、在校生、OB混ざり合っての紅白戦で締めるのがバスケ部の恒例だった。試合が終わったあと、卒業する先輩のユニフォームを後輩がもらい受けるのも伝統の行事だ。
 部員の中でも小さい部類の俺のユニフォームは、さっき俺に抱き付いてきたデカイやつがもらうことになっている。もらったって着れないくせに、早いうちから予約が入り、「俺のなんかやったって着れないだろう」って言ったのに、「いえ、使い道がありますから」と返されてちょっと嫌な予感がしている。
 途中入部したバスケ部だったが、居心地は悪くなかった。試合はそんなに出られなかったけど。結局最終秘密兵器は秘密のまま披露することもなかったけど。それでも腐ることなく続けることが出来た。
 相変わらず圭吾は伝説の先輩らしく爽やかに笑っていて、俺の失笑を買っている。
 さっきまで爆発しそうにざわざわしていた俺の胸は、今は別の痛みでざわついたままだ。
 今日でここともお別れだということを、俺はここでも、圭吾にも伝えていない。
 今日ですべてとお別れだ。
 なんて柄にもなく感傷に浸っている俺の後頭部に懐かしい鉄拳を喰らわせたOBが、「少しは寂しそうな顔をしろよ」と言ってきた。
 長年培った無表情は、俺のそんな感傷的気分にも関わらず、鉄面皮のままだった。
 軽く腹を満たしたあと、ユニフォームに着替えた俺たちは体育館に向った。
 グーパーじゃんけんで適当に決めたチームでの試合が始まる。圭吾が一緒のチームにいた。
 卒業試合だったから、パスはほとんど俺たちに回ってくる。
「孝介!」
 圭吾からのパスを受け取りゴールに向う。俺のユニフォームを予約中の後輩が覆い被さってきて、俺はそれを華麗に避けてシュートを放った。
 リングの外側を弾いたボールを、いつの間にかゴール下に入り込んでいた圭吾がリバウンドしてダンクで決めやがった。
 雄叫びと共にハイタッチ。
 すぐさま相手ゴールに向けて走り出す。
 受験だ引っ越しの準備だと、怠けていた体はすぐに息が上がった。情けねえなあと滴る汗を手の甲で拭いながら、やっぱり無表情のままボールを追った。


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