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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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絶対にまた顔を出してくださいと、後輩が冗談のように滂沱するのに「分かった分かった」と軽く答え、俺たちは見送られた。 もう二度と歩くことはないだろう学校からの帰り道を、久しぶりの圭吾と二人で歩いた。 三年の夏休みで引退してから、予備校だ図書館だと言いながら、たまに学校に顔を出す圭吾を避けてきた。 志望校を決め、そこに向っているときに気を散らされるのが嫌だったし、それに、圭吾を騙し続けるのも嫌だった。 会えば圭吾は俺の目を覗く。そして俺は圭吾の期待に応えてやりたいと思ってしまい、同時に俺も期待してしまうから。 卒業式は午前中だったから、送別会を終えてもまだ三時にもなっていない。 道は明るく、人通りもある。 春に照らされた帰り道を、俺と圭吾は歩き続けた。 やがていつものように、土手下の分かれ道に辿りつく。 ここでバイバイだ。 「出発はいつなんだ?」 いつもと変わらずに別れようとする俺に、圭吾が聞いてきた。 「早めに行こうと思ってる」 俺の答えに圭吾はそうか、と口の中で答えている。 早めもなにも、今日なんだけどな。 そう言ったら圭吾はなんて言うだろうか。 そんなことを思いながら、土手に上がる道を見ている俺に、また圭吾が聞いてきた。 「いつ頃?」 「……うん」 どう答えようかと曖昧な声を出していたら、ポケットの携帯が震えた。 誤魔化すように携帯を取りだし、目を落としたままメールを読む振りをする。 さっき教室で別れたクラスメートから何通か入っていた。今別れたばかりの後輩からもなんだか熱烈なメールが来ている。 「孝介」 名前を呼ばれ、圭吾を見上げる。 「いつ行くんだ?」 試合のときみたいな真剣な顔をして、圭吾が俺を見つめている。 「いいじゃん別に。いつ出発しようが」 「よくないだろ」 「なんでよ」 「そりゃ、気になるからだろう」 「なにが?」 「……お前さあ」 なんでそんながっかりしたような声を出すのか。情けなく下がった眉で、圭吾が俺を見つめている。 「見送りにも行きたいし、行く前に会いたいって思うだろう?」 何言ってんだか、と、俺も圭吾を見つめ返した。 「今日だって久しぶりに会えたんだし」 情けない顔のまま圭吾が笑った。 「俺に会いたかったってか? だっせー」 「そうだよ」 ふざけて言った俺の言葉に、圭吾が答えた。 「なに言ってんだよ」 まっすぐに俺を見つめて、会いたかったなんて言われたら、どう答えていいのか分からなくなるじゃないか。 圭吾の顔を見ていられなくて、俺はひっきりなしに鳴る携帯に目を落とした。 「今日」 携帯をいじりながら圭吾に告げる。 「今日?」 「うん。そう。これから家に行って、荷物持って、そのまま出るんだ」 圭吾が絶句している。 俺は携帯を見つめたまま、顔を上げずに立っていた。 「なんでまた……今日なんだよ」 信じられないとでも言うような、責めるような口調で、圭吾が呟いた。 「早く行きたかったんだ」 「だって、それにしたって早すぎだろうが」 「そう?」 携帯に文字を打ち込みながら、軽く答える。 同級生の明後日ならどうか、っていう呼びかけに「ごめんな。実は今日出発するんだよ。みんなによろしく」って打ち込む。 送信して携帯を閉じ「じゃ、そういうことだから」と、顔を上げた。 「そっちも元気で。ここでバイバイな」 いつもの分かれ道。 いつもの土手下で、いつもと同じように、さよならを言った。 |
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