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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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「孝介っ!」 土手に上がる階段に足をかけたら、強い力で腕を掴まれた。 「なんだよ」 引っ張られ、一段上がったのにまた元の位置に戻され、俺は憮然とした声を上げた。圭吾は俺の腕を掴んだまま、おっかない顔をしている。 「お前、それはねえだろ」 「なにが」 「そんな急な話、俺は聞いてねえぞ」 「今言ったじゃん」 「遅ぇよ!」 「なんか怒ってる?」 「怒ってるよ!」 「なんで?」 ワケが分からず聞き返す俺に、圭吾はまた「お前なあ」と呆れたような声を出し、だけど掴んだ腕を離さなかった。 「人のことを避けまくりやがって。それで会えたと思ったら今日でバイバイだと?」 「避けてねえし」 「避けてただろうが」 バレてたか。 ちょっとずつ距離を置いていたつもりだったが、圭吾にとってみれば避けまくられていたと思われても仕方がないと思った。 だけど、会いたいとか、やっと会えたとか、見送りだとか、そんな言葉を聞いてもどうすることも出来ないじゃないか。 会ったって圭吾は俺の中の祥弘を捜す。 会いたいと言うのだって、俺に会いたいわけじゃないのを知っているから、そんな圭吾に俺が会ってどうするんだと思う。 「……悪かったよ」 自分の撒いた種なんだけど。 「俺、お前のこと、騙してた」 圭吾が祥弘に会いたいっていう気持ちを利用して、騙した俺が悪いんだけど。 「祥弘はもう、俺の中に……いないんだ」 必死に俺の中に祥弘を捜す圭吾に、嘘を吐き続けた。 「あの日、祥弘が出てきてお前と話した日、あいつは消えた。本当に」 俺を掴んでいた腕の力が徐々に弱まってきた。 「いくら俺に会いに来ても、もう、祥弘に会わせてやることが出来ない」 手が、完全に離れた。 「ごめん」 俺の目を、怖がらずに覗いてくれた。 親にすら怖がられた俺のこの能力を、圭吾は受け止めて、感謝していると言ってくれた。 だから言えなかったんだ。 「本当は後悔してる。祥弘を見つけて、お前に教えたこと」 「孝介」 「あんとき、祥弘に体やるって言ったんだ。そしたらいらないって突き返された」 化けて出るぐらいの未練を作って生きろと言われた。だけど俺のやったことは、圭吾に新たな未練を作っただけだった。 祥弘が言っていた後悔とか未練とかは、こんなんじゃない、きっと。 「圭吾には気の毒だけど、俺は俺の体のままだから」 祥弘が懇願しようが、圭吾が泣こうが、俺は二人の橋渡しをしちゃいけなかったんだ。 死ぬ前にどんな心残りがあったって、どんな伝えたい思いがあったとして、残されたやつにどれだけの悔いが残ったとして、でも生きている人間はそれを生きながら悔い、昇華していくしかないんだ。 「祥弘と入れ替わってやることも、たまに会わせてやることも出来ない」 間違っても死んだ人間に助けてもらっちゃいけない。それをしてしまえば、目の前の圭吾のように、そこに立ちすくんでしまう。 「俺もお前も、祥弘も、あの日出会っちゃいけなかったんだよ」 棒立ちしている圭吾にはっきりと告げた。 俺たちは出会ってはいけなかったのだと。 「なんつーの? そういうしがらみっていうか、そういうの全部捨てて、一からやり直したいっつうか」 持っていた携帯がまた震え、俺は誤魔化すように携帯を開きながら、ついでのように言葉を綴った。 「騙してごめん。つか、騙されてんじゃねえよって話。お前人がよすぎ」 冗談めかして言ってみたが、圭吾は何も言わない。 ただ棒のように突っ立って、俺の告白をきいていた。 嘘吐いてたこと。 祥弘にはもう二度と逢えないってこと。 もうこの世にはあいつはいないんだってこと。 ショックを受けているらしい圭吾にもう一度「ごめんな」って謝って、俺は階段を上がった。 「じゃな、圭吾。バイバイな」 |
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