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さよならの前に君に伝えたかったこと
38

 春先の土手は風が強くて、俺は前屈みになって歩く。
 なにも告げずに消えようと思ったのに、とんだ告白をさせられてしまった。
 やらかした嘘を嘘のまま、フェードアウトしようと目論んでいたのに、結局言うことになってしまった。
 だって祥弘に会いたい圭吾が、遠くに行った俺に会いに来てしまいそうな気がしたからだ。
「どんだけ未練たっぷりなんだよ」
 圭吾の情けなさっぷりに笑いが込み上げるが、元はと言えば俺のせいだった。
 そうして会いにきた圭吾を性懲りもなく喜ばせようとしてしまう自分が目に見える。
 まったくバカにも程がある。
 今が夕方で、いつかみたいな夕焼けが目の前にあったら「馬鹿ヤロー!」なんて夕日に向って叫びたいところだったが、生憎晴天の真っ昼間で、土手には暢気に散歩しているじいさんなんかがいて、俺も結局そんなキャラじゃなかったし。なんて思いながら、土手道を歩き続けた。
「おい」
 突然後ろから呼び止められて振り返ると、圭吾が立っていた。走ったらしく、息を切らしている。
「せっかく格好良く別れの挨拶をしたところをすまないんだが」
 本当だ。台無しだ。俺のこの感傷をどうしてくれるんだ。
「勝手に言いたいだけ言ってバイバイとか逃げてんじゃねえよ」
「はあ?」
「俺にも一言言わせろ」
 大股で近づいてきた圭吾に見下ろされる。目がまだ怒っているように見える。
 騙しやがってと罵られるのか。ふざけんなと怒鳴られるのか。
「俺は……」
 乱れた息を整えるようにして、圭吾が一つ溜息をついた。
「入れ替われなんて思ったことはないぞ」
 おっかない目をして、まっすぐに俺を見つめたまま、圭吾が言う。
「祥弘出せって、そんなつもりでお前に会いに来ていたわけでもないぞ」
「嘘をつくな」
「お前がどうしてるかなって、気になって」
「嘘だ」
「そりゃ、ついでに祥弘にも会いたかったけど」
「ほらな。そっちが本命なんだろ」
「違う」
「祥弘祥弘ってしがみついてきてたじゃねえか」
「……それを言うな」
「大泣きして抱きついてきてたじゃねえか!」
「だからって、身代わりにしようなんて思ってない」
「嘘だって!」
「お前はお前だって、ちゃんと分かってる」
「だって……」
 いつだって俺の目を覗いていたじゃないか。俺の中から祥弘を見つけだそうと必死になってたじゃないか。
「孝介」
 俺がどんな思いで覗かれていたかなんか考えもしなかったくせに。
「俺の方こそ悪かったよ。きつい嘘吐かせた」
 ハの字に眉毛を下げたまま、圭吾が謝ってくる。伝説の格好いい先輩は、俺と祥弘の前でだけ、こういう情けない顔を見せる。
「お前は祥弘じゃない。祥弘は死んだんだ。俺だって分かっている。祥弘はもういないんだよ」
 圭吾が静かに言う。泣き笑いのような表情を浮かべて、圭吾が祥弘は死んだのだとはっきりと言った。
「だいたい、祥弘はお前みたいに捻くれていない」
「悪かったな」
「もっと単純で扱いやすかった」
「馬鹿だったしな」
「お前は本当に口が悪いな」
 圭吾が笑って「まあ、間違っちゃいないけど」と明るく言った。


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