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さよならの前に君に伝えたかったこと
39

「出会っちゃいけなかったとか、そういうこと言うなよ。だいたい高校卒業したぐらいで、しがらみ捨てるって、なに言ってんだよ」
「うるせーよ」
「今日出てくって、お前誰にも言ってないのか?」
「言ってない」
「バスケ部の連中にも?」
「そうだよ」
「そういう拗ねたことすんなよ」
 心外なことを言われて、圭吾を睨んだ。
「拗ねてなんかいない」
「拗ねてるじゃないか」
 強い口調で言われ、ムッとする。
 拗ねてなんかいない。
 新しい生活に向けて前向きになっているだけだ。
「誰にも言わずに姿消すって、孤高の旅人みたいなこと言ってんじゃねえよ。全然格好良くないぞ」
「うるせえって!」
「みんなまた来てくれって言ってたじゃないか。まさか今日立つなんて誰も思ってないぞ」
「そうだけど」
 なんだか知らないけど圭吾が説教を垂れてくる。
 せっかくきれいさっぱり精算して、清々しい気持ちで旅立てると思っていたのに、すべてがグダグダだ。
 親は卒業式に来ちまうし、黙っていなくなるはずの圭吾には追いかけられて「格好悪い」とか説教されてるし。
 なんかもう何もかもうまく進まなくて腐っているのに追い打ちを掛けるようにしてまた携帯が鳴った。
 開くと性懲りもなくさっきのクラスメートからだった。今日出発するという俺の返信に驚いている。
『マジで? 一旦行って帰ってくるんだろ? そのときに集まろう。帰る日教えろ』
 大袈裟なデコメの字が躍っている。真剣なんだかふざけてんだか分からない友達のメールに脱力する。
「……まったくなんなんだよ。みんなして」
 溜息を吐きながら呟くと、圭吾が「みんなお前が好きなんだろ」って言ってきた。
「んなことねえよ」
 マジで、の文字がドキドキと躍っている。
「そうだって」
 ただのクラスメートなのに、ちょっと親しく話すようになっただけの赤の他人なのに、ハートマークなんかが付いている。
「こんなの」
 ピンクのハートがチカチカ点滅している。
 帰る日教えろとか。
 また会おうとか。
 俺はここから出ていくことしか考えていないのに。
「俺だって寂しいよ、孝介」
「ふざけんなよ」
「ずっとどうしてるかなって気になってた」
「違うだろ」
「こっちに帰って来たときには会いたいし、そっちに会いにも行きたいって思ってる」
「無理だよ」
「孝介」
「だって、俺……」
 もう、嘘つけないもん。
 祥弘が俺の中にいるって、騙すことが出来ないもん。
 全部捨てて。
 きれいさっぱり。
 誰も俺を知らない遠い所へ。
 ずっとそれだけ見据えてやってきたのに、親は卒業式に来るし、後輩は泣くし、クラスメートは帰ってくる日教えろってしつこくメールするし、圭吾は寂しいって、俺に会いたいって言うし。
 携帯を見つめている視界がぼやけて、ポトリとひとつ雫が落ちた。


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