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さよならの前に君に伝えたかったこと
40

 一回落ちちゃったら堪えることが出来なくなって、ポタポタと続けて雫が落ちていく。
 格好悪ぃ。
 卒業式の様式美かよ。
 雫と一緒に声も漏れちまって、携帯を持ったままの肘で目と口を一緒に押さえる。
 その腕をそっと掴まれて引っ張られ、土手の草むらに座らされた。
 体育座りした膝に顔を埋めて、いろんな感情が収るのを待っている横で、圭吾も黙って座っている。
 ズビズビと鼻を啜る音が格好悪かったけど涙と一緒に鼻水が出てどうしようもなかった。
「祥弘が事故で死んだ日……」
 ようやく涙が治まって、それでも顔を膝に埋めたままの俺の隣で圭吾が話し出した。
「あの日、ちょっとした喧嘩してさ。喧嘩はまあいつものことだったんだけど、けどそのときはちょっとだけ深刻で。でもそんなに深くは考えなかった。明日はお互い気まずくても何日かすれば元通りになるだろって、高括ってた」
 バッシュを先に買っただの買わねえだのって話だったのは覚えている。俺たちのする喧嘩なんてだいたいそんなものだ。
「でもそのまま祥弘が事故に遭って死んじゃってさ。後悔したなんてもんじゃなかったよ」
 静かに話す声は淡々としていて、悲しい出来事を悲しい思い出としてしっかりと受け止めているものだった。
「明日も会えるって思っている人間と必ず会えるってわけじゃないんだってそのとき痛感した。けど、忘れるもんだな」
 あっけらかんとそう言って圭吾が笑う。
「受験が始まって、なんか避けられてんのかなって思って、でもまあ受験が最優先だし、なんて自分を納得させてさ、終わったらって後回しにしてた」
 話の続きを待って黙っているのに圭吾はなにも言わない。どうしたんだろうと思って埋めていた膝から顔を上げると、圭吾がこちらを見ていた。
「俺は孝介に会いたいよ」
 まっすぐに言われて、俺はどうしていいか分からず、膝に顎を付けて目の前の地面を睨んだ。
「まさか今日いなくなるなんて思ってなかったから、卒業式に颯爽と顔出して、久しぶりなんて言ってやろうと思ってた。ほんと、こんな仕打ちを受けるとは思わなかったぞ」
「仕打ちってなんだよ」
「さんざん人の周りをウロチョロしといて掻き回して、バスケ始めたらそっちで楽しそうにしてさ、挙句に人を邪魔扱いして避けまくって、そんで今日でバイバイって。お前酷いな」
 話だけ聞くと、俺が飛んでもなく自己中みたいだ。
「俺だっていろいろと悩んだんだよ」
「そうか」
「そうだよ。人を悪者扱いしやがって。ふざけんなよ。人の気持ちも知らないで」
「相談してくれなきゃ分かんないよ」
「出来るかよ」
「意地っぱりだな」
 そう言って圭吾は「可愛くねえな」と呟いた。


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