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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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「とにかくここでバイバイなんて終わらせるつもりはねえから、俺は」 「なに言ってんの?」 「会いに行くし。お前も帰って来い」 な、と下から顔を覗かれて、目が泳ぐ。 突然そんなことを言われたって、困る。 「帰って来いったって……帰る家ねえし」 困った挙句にふて腐れて、ついに本音が漏れた。 「帰って来たくても……帰れないし」 「親、離婚してたんだっけ」 「そうだよ。でもそういうのも関係ない。帰るとあいつらが……困るから」 最後の方は尻つぼみになり、消えるような小さい声になった。ついでにその声も震えて、また目の前がぼやけてくる。 まったくなんなんだよ、俺は幼児かよ。なんでこんなことぐらいで泣きそうになってんだよと思うのに、なんかもういろんなことがぐしゃぐしゃで歯止めがきかない。 「……じゃあ、俺んところに来ればいい」 「だからなに言ってんだよ」 「俺もそろそろ家出ようと思ってるし。一人暮らし始めたら気兼ねないだろ?」 宥めるようにまた「な」と顔を覗かれる。 「会いたい会いたいって、なんでそんなに俺に会いたいんだよ」 「お前……それを言わせるのか」 「なにが?」 圭吾が絶句して、困ったように頭を掻いている。 「どうせお前の会いたいのなんか祥弘のくせに」 「またそういうことを言う」 「そうだろ。ずっと俺の目の中覗いて、祥弘探してたじゃないか!」 「孝介」 「どうせ俺なんか祥弘みたいに可愛くないし」 「おい」 「捻くれてるし、口も悪いし、こんなふうだし」 ああ、もう。なんなんだ俺は。駄々っ子か。 なに言ってんだよ、俺。 ほら、圭吾が笑ってるじゃないか。 「孝介」 「うるさい」 「お前、可愛いな」 「ふっざけんな」 「マジで。可愛いよ」 笑いながら圭吾が俺を宥める。 「孝介が好きだよ」 「嘘を吐くな」 「嘘じゃない。好きだ」 「知らねえよ」 「俺は二度と……同じ後悔はしたくないんだ。お前だってそれは知ってるだろ」 穏やかだけど強い声で圭吾が言う。 喧嘩したまま、想いも伝えないまま、祥弘は逝ってしまった。あのときの後悔をもう二度と繰り返したくないのだと、真っ直ぐな目を向けて、圭吾が言う。 「お前が好きだ。気になってて、ずっと顔が見たかった。会いたかった。明日も会いたい。毎日でも会いたい」 風が吹いて、俺の髪を撫でていった。 圭吾は横に座って、ずっと俺の横顔を見つめている。 「本当はもう少し時間を掛けて、自分の気持ちも確かめて、それから言うつもりだった」 「なんだよそれ。やっぱり適当なんじゃないか」 「けど、お前がいなくなったら困る」 「困るったって……俺、行っちゃうし」 「だから今言っているんだろ。もっともお前が二度と俺に会いたくないっていうぐらい嫌われてるんなら、諦めるしかないけど」 さんざん人に説教を垂れて、余裕ぶって人の事を可愛いなんてほざいたくせに、急に気弱な声を出している。 「弱腰発言だな」 「俺は繊細なんだよ」 「泣き虫だしな」 「またそれを言う」 眉をハの字に曲げて、圭吾は本当に困ったように項垂れた。 気弱で実は泣き虫な圭吾。 格好付けで、周りに騒がれて偉そうにしてるけど、実はすごく臆病なのを俺は知っている。 俺と、祥弘だけが知っている圭吾だ。 「会いたい。……会いに行っても、いいか?」 圭吾が聞く。 俺は圭吾から視線を外してまた地面を睨む。 風が頭を撫でる。 ほら、頑張れよって励まされているような気がして、だけどうるせえよ、そういうのは俺のキャラじゃないんだよ、なんて心の中で葛藤したりなんかして、俺は風に吹かれたまま、長いこと地面を睨んでいた。 |
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