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さよならの前に君に伝えたかったこと
4

 圭吾が泣いている。
 どれぐらい時間が経ったんだろう。
 圭吾が泣いている。
 俺、あれからどうしたんだっけ?
 学校の帰り道の土手で、圭吾と喧嘩して別れたんだ。それから、圭吾の後を追って、ご機嫌取りに池田屋でパン買おうと思って。
 自転車で土手を降りて、それから、
……それから?
 どうしたんだっけ?
 確か、土手下の公道をトラックが走って来て、俺、それ避けようとして……。
 それから
 あれ?
 俺、トラック避けられたんだっけ?
 圭吾が泣いている。
 何で泣いている?
 ってか、お前、何に取りすがって泣いているんだ?
 ここどこ?
 なあ、圭吾。俺、ここにいるんだけど。なんで何も言わない?
 ここ……病院? それ、ベッド?
 その白い布かけてる人、誰?
……って、この状況考えて……多分それ、俺だよなあ。
 ああ、
 もしかして、俺、死んじゃった?
「祥弘! よしひろぉ……」
 圭吾が俺の名前を呼びながら、俺と思われる白い塊に取りすがって泣いている。
「祥弘……俺……俺……ごめんなあ」
 身も世もなく泣き伏すって、こういう光景なんだろうか。
 見ている俺の胸が痛くなるぐらい、圭吾は泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
 圭吾。
 圭吾!
 ほら、俺はここにいるから。なんにも痛くないから。だから、泣くな。
 一生懸命に語りかけても、聞こえないのか、圭吾は泣き続ける。
 そんなに泣いたら目が溶けるって。俺、わかんないまま逝っちゃったらしくて、なんも痛手負ってねえから。だからほら、泣くな、圭吾。 
 ごめん、許してくれと、繰り返す言葉に、喧嘩別れしたんだっけと思い出す。そうか、それで謝ってるのかと納得する。 
 怒ってねえし。お前なんも悪くねえし。
 圭吾の背中に触れても、何の手応えもない。
 これって俺幽霊になっちゃったってこと?
 どうでもいいけど、圭吾が自分を責めて泣いているのがつらい。
 圭吾 圭吾 本当、泣くなって……
 ああ、俺こそごめんなぁ。俺、死んじゃうなんて思わなかったからさ。すぐに仲直り出来ると思ってたからさ。
 お前を怒らせちまって、俺を置いて行かせちまって。
 何を話しかけても、どうにかして分かってもらおうと努力をしてみても、泣いている圭吾は今、俺がここにいることに気がつかない。
 どうしたらいいんだろう。それで……俺はこれからどうなるんだろう。消えて無くなるのかな。今ここにいる俺ごと全部、居なくなっちまうのかな。
 わからない。なんにも。
誰か教えてくれよ。



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