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さよならの前に君に伝えたかったこと(完)
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「……ん、んぅ……ん、ん」
 全然分かってくれない圭吾に、恨みを込めて睨みあげる。ひっかき傷の付いた腕をよじ登るようにして、圭吾の体を引き寄せようと必死に引っ張った。
 俺の表情を観察するように見下ろしていた圭吾の視線が下りていく。
「けぃ……ご」
 膝を持っていた腕が離れ、指先でつぅ、と性器を撫でられると、ビクン、と体が跳ね上がり、俺は大きく仰け反った。
「……ここ?」
 やっと気が付いたらしい圭吾が、その大きな手で包んでくる。腰を送るのと一緒に上下されたら、自分でも驚くほどの高い声が上がった。
「……っ、はぁ、ああぁんんっ」
 俺の声を聴いた圭吾が、俄然張り切りだした。ゆるゆるとそこを動かしながら、自分も腰を動かしている。
「あっ……ぁぁ、ぁああっ」
 強く打ちつけたかと思うと、次はゆっくりとした動作で回し、ぐりぐりと押し付けてくる。包んだ手のひらを上下させながら、人差し指で先端をクリクリと撫でてきた。
「……いい……?」
 広げられていた足を、自らもっと開き、圭吾に押し付けるようにしながら揺れだした俺を見て、圭吾が聞いた。
 答えられないまま見つめ返すと、圭吾はちょっと笑って、それから体を倒してきた。
 背中に回ってきた腕で抱きしめられ、体が浮く。俺も圭吾の首に手を回し、全部を密着させるようにして揺れに身を任せた。 
 圭吾の固い腹が俺のペニスを擦りあげ、後ろでは圭吾のペニスが水音を立てて行き来している。抱きしめられて、熱い息が耳にかかり、もっと熱い舌が入ってきた。
「ああっ、ああ、ああ」
 クチャクチャと耳の中で水音がして、もう、声が出っぱなしだ。
 すごく気持ちがよくて、すごく愛しくて、なんだか視界がぼやけてきた。
 好きだよ、って急に言いたくなった。
 でも恥ずかしいから代わりに体を揺らして動きに没頭した。
 もっとよくなったら言おうか。いくときに言おうか。終わってから言おうか。
 言いたくて、言いたくて、声を漏らしながら圭吾を見つめた。
「あ……ん、ん、ん、けぃ……ご……」
 名前を呼んで、目が合ったら言おうと思ったのに、俺が口をきく前に圭吾が塞いできた。
 これじゃあ言えないじゃないかと思いながら、大きく開けて迎え入れる。
 舌を絡ませながら、圭吾の動きが激しくなっていく。
「あ……あ、も……ぅ、けい……ご」
 キスの合間に終わりが近いことを知らせ、自分から強く押しつけた。
「……いく?」
「……ん、ん」
 圭吾が揺れながら俺の顔を覗く。
 イキ顔を見られたくなくて顔を背けようとしたけど、圭吾の唇が追ってきて、捕らえられた。
 唇を合わせながら、揺れながら、圭吾が俺の顔を見つめ続ける。
「見……んな、よ」
 ギリギリ限界で、それでも恥ずかしいから抗議をしたのに、圭吾はふ、と笑って「可愛い」と、また言った。
 うるせんだよ、可愛いとか言うな、必死になってるお前の方がよっぽど可愛いんだよ! と思った言葉は結局声にならなかった。
 代わりに聞こえてきたのは、自分の声かと疑うような高い声と、低く呻くような圭吾の声だった。

 明るさの増していく部屋で、目を覚ました。
 隣では圭吾が俺を抱き枕のようにして、寝息を立てている。
 カーテンのない窓の向こうに空が見える。晴天の青だ。
 仰ぎ見るその先は、どこまでも高く、遠く遠く、遥か彼方だ。
 一瞬、僅かな痛みが胸をよぎった。それは郷愁にも似た切なさだった。
 到底手の届かないあの場所へ、俺は行きたいんだろうか。なぜ行きたいと思うのか、俺自身わからないけど。
「孝介」
 名前を呼ばれ横を向くと、圭吾が俺を見ていた。胸の痛みはすぐに消えて、もうどこにも残っていない。
 一瞬の切なさは、目の前でのほほんと笑っている圭吾への愛しさに変わる。
 春の空はこれからの始まりを祝い、叫ぶように青く、高い。刻々と色を変え、光を増し、昨日よりも今日、今日よりも明日と、色鮮やかに変化していくんだろう。
 それは、留まりたいという願いを叶える術もないまま、容赦なく季節は過ぎていくのだと、俺に教えてくれる。
 なあ、祥弘。
 お前は俺に、そう言いたいんだろう?
 人生なんてきっと短い。あの上で待っている者にしてみれば、それは一瞬の出来事なんだろう。
 それならせいぜい、地上でもがいてみるよ。
 いずれ昇っていくんだったら、いられる間、俺はここに居続けよう。
 光が反射して、窓がチカリと光った。
 流れる雲が光を遮り、それからまた顔を出し、窓を光らせる。
 今度は言おう。
 次に雲が流れて光が覗いたら。
 俺を抱き締めながら、静かに笑みを浮かべている、偉そうなのに気弱な恋人に、俺の言葉を伝えよう。
  


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