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さよならの前に君に伝えたかったこと
6

 ベッドの上で携帯を操作して、圭吾が何かを見ている。
 俺からのメールを見ているのかな。よく他愛のないことでメールしたから。朝練がだるいだの、担任に叱られたの、深夜番組のことだの。
 画面を見てふっと圭吾が笑った。
 なんだろ。なんか思い出したのか? 教えてくれよ。
 ベッドから体を起こした圭吾が自分の鞄を引き寄せた。中から引っ張り出したのは俺のユニフォームだ。母さんが俺の棺に入れようとしたのを、圭吾が泣きながら「俺に下さい」って頼んでいたのを見ていた。俺の形見だもんな。俺も焼かれてなくなってしまうより、圭吾に持っていてもらう方が嬉しかった。大事にしてくれよ。
「祥弘……」
 ベッドに戻ると、圭吾は俺のユニフォームに顔を埋めて丸くなった。
 丸まったまま、クンクンと俺のユニフォームの匂いを嗅いでいる。
 ちょっと面はゆい心地になる。母さんが洗ってくれていると思うけど、毎日着ていたユニフォームだ。たぶん、俺の匂いが染みついてるぞ。ちょっと、臭いかもよ?
「祥弘の匂い……する」
 俺の声が一瞬聞こえたのかと思ったけど、圭吾の独り言らしい。
 それは、聞いたことのないような、濡れた甘え声だった。
 抱きしめるみたいに俺のユニフォームを胸に抱いて、圭吾が俺の名前を呼ぶ。泣き腫らした目で、目の前に俺がいるようにして呼ぶ声は、熱っぽくて、愛しげだ。
 圭吾の手が、そっと動いた。
「祥弘……」
 もう一度俺の名前を呼んで、圭吾の手はスウェットのパンツの中に入っていった。溜息とともに、俺の名前を何度も呼びながら、その手がゆっくりと動いている。
 圭吾。
 圭吾……そうなのか?
 もしかして、お前も俺と同じだったのか?
 俺が、お前を想って一人でしていた時みたいに、お前もしていたのか?
 嬉しい、圭吾。
「あ……あぁ……祥弘……」
 圭吾。
「よし……ひろ……」
 見えない手で、圭吾の手に自分を重ねる。
 俺も、お前と一緒だ。
 いつもお前のことを考えて、こうして、慰めていたんだ。 
 お前はどんなだろうって。どんな風に俺に触れてくれるだろうって。
 圭吾 圭吾 俺もお前に触れたい。
「好きだ……」
 ああ、圭吾。俺も、俺もだ。俺もお前に言いたい。
 懸命に俺も好きだと圭吾の体に縋りつく。だけど、俺の体は絶対に圭吾に触れることは出来ないんだ。 
「んっ」っと、小さく喘いで、圭吾が果てた。溜息を漏らして俺のユニフォームを口元に持っていく。まるでキスをするみたいに。
 つうっと、圭吾の目から一筋涙が零れた。
 充分だと思った。
 ありがとう。圭吾。
 これで、充分だ。


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