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さよならの前に君に伝えたかったこと |
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ベッドの上で携帯を操作して、圭吾が何かを見ている。 俺からのメールを見ているのかな。よく他愛のないことでメールしたから。朝練がだるいだの、担任に叱られたの、深夜番組のことだの。 画面を見てふっと圭吾が笑った。 なんだろ。なんか思い出したのか? 教えてくれよ。 ベッドから体を起こした圭吾が自分の鞄を引き寄せた。中から引っ張り出したのは俺のユニフォームだ。母さんが俺の棺に入れようとしたのを、圭吾が泣きながら「俺に下さい」って頼んでいたのを見ていた。俺の形見だもんな。俺も焼かれてなくなってしまうより、圭吾に持っていてもらう方が嬉しかった。大事にしてくれよ。 「祥弘……」 ベッドに戻ると、圭吾は俺のユニフォームに顔を埋めて丸くなった。 丸まったまま、クンクンと俺のユニフォームの匂いを嗅いでいる。 ちょっと面はゆい心地になる。母さんが洗ってくれていると思うけど、毎日着ていたユニフォームだ。たぶん、俺の匂いが染みついてるぞ。ちょっと、臭いかもよ? 「祥弘の匂い……する」 俺の声が一瞬聞こえたのかと思ったけど、圭吾の独り言らしい。 それは、聞いたことのないような、濡れた甘え声だった。 抱きしめるみたいに俺のユニフォームを胸に抱いて、圭吾が俺の名前を呼ぶ。泣き腫らした目で、目の前に俺がいるようにして呼ぶ声は、熱っぽくて、愛しげだ。 圭吾の手が、そっと動いた。 「祥弘……」 もう一度俺の名前を呼んで、圭吾の手はスウェットのパンツの中に入っていった。溜息とともに、俺の名前を何度も呼びながら、その手がゆっくりと動いている。 圭吾。 圭吾……そうなのか? もしかして、お前も俺と同じだったのか? 俺が、お前を想って一人でしていた時みたいに、お前もしていたのか? 嬉しい、圭吾。 「あ……あぁ……祥弘……」 圭吾。 「よし……ひろ……」 見えない手で、圭吾の手に自分を重ねる。 俺も、お前と一緒だ。 いつもお前のことを考えて、こうして、慰めていたんだ。 お前はどんなだろうって。どんな風に俺に触れてくれるだろうって。 圭吾 圭吾 俺もお前に触れたい。 「好きだ……」 ああ、圭吾。俺も、俺もだ。俺もお前に言いたい。 懸命に俺も好きだと圭吾の体に縋りつく。だけど、俺の体は絶対に圭吾に触れることは出来ないんだ。 「んっ」っと、小さく喘いで、圭吾が果てた。溜息を漏らして俺のユニフォームを口元に持っていく。まるでキスをするみたいに。 つうっと、圭吾の目から一筋涙が零れた。 充分だと思った。 ありがとう。圭吾。 これで、充分だ。 |
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