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エイジ My Love |
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指に柔らかい感触が訪れた。中指の節んところに光一の唇が押し当てられ、そっと噛まれた。 「っ……」 痛いとは感じなかったが、鋭い感覚に体がピクと跳ねた。歯を当てたあと、次には舌が這ってくる。中指の節が光一の口の中に入っていく。含まれたまま、舌を搦められ軽く吸われた。次には親指の付け根を噛まれて、それから同じようにして舌が這ってきた。俺の掌に自分の頬を擦りつけるようにしながら、光一が俺の手にキスをしてくる。まるで、俺が光一の頬を撫でているみたいな錯覚に陥った。 掌にあった唇が更に滑り、手首を噛んでくる。俺の左手を愛撫しながら、もう片方の腕も取られ、引っ張られた。誘導されるまま光一の首の後ろに腕を回すと、強く抱き締め返された。 お互いの胸が当たり、相変わらずドゴドゴ鳴っている心臓の音が聞こえた。 こいつは今どんな顔をしているのかと想像をしてみるが、思い浮かべることができなかった。見てみたいとも思うし、見るのが恐いとも思う。見てしまったら、取り返しのつかないことになりそうだと思った。 背中に回っている光一の腕が、アンダーシャツを引っ張って、また、そろそろと中に入ってくる。宥めるようにゆっくりと撫でてくる掌は、お願いだからと訴えてくるようだ。 壁に俺を押しつけ、掴んでいたほうの腕も光一の後ろに回される。俺の首元に体を埋めるようにしながら、両方の手でアンダーをたくし上げられた。 恐怖はまだ残っていて、心臓はバクバクだ。止めろって俺が言ったら、たぶん光一は止める。 だから止めてくれと言えなかった。 シャツを着たままアンダーだけが胸の上まで上げられる。首んところにあった光一の顔が下りていき、胸の上を唇で撫でられた。 「っ……ぅ」 チロチロと舌先で乳首を撫でられ、くすぐったさに声が出そうになり、喉を詰める。光一が声を出さないのに、自分だけ出すのは勘弁だと思った。 膨らみもない、平たい胸を光一が吸ってくる。感じるかと聞かれれば、正直分からない。くすぐったいというのが先で、だけど光一の動きに合わせて体が跳ねてしまうのを止められなかった。 胸の上に唇を置いたまま、光一の掌が下りていく。ベルトのバックルに掛かり、カチャカチャという金属音がタオル越しに聞こえてきた。 「……おい」 ちょっとだけって言ったじゃねえか。何処までがちょっとなんだよと光一を呼んでみるが、光一の動きが止まらない。 「う、わ、わ……」 肩を押しながら後ろに逃げようとしたが、壁に尻が当たって阻まれた。俺に押されても光一は構わずベルトを外してきた。今まではあんなにゆっくりと動いていた腕が、信じられない速さでズボンのボタンを外し、ファスナーを下ろしていく。ズボンごと下着に掛かった手でずらされると、中に収まっていたものを、取り出されてしまった。 「っ……っ、っ……!」 ペロっと先端を生暖かくて湿ったものが掠めていく。膝を立てて逃げようとしたが、踵が床を蹴るだけで、一向に逃げられない。腕を突っぱね、肩を強く押し、もう一度立てた膝で光一を蹴ろうとした瞬間、今度は先端を柔らかいもので包まれて、硬直したまま動きが止まってしまった。 下着から顔を出したソレを、光一が咥えている。頭の部分を口に含み、舌先でチロチロと舐られた。 「ぁっ、……ぅ」 突然の衝撃に声が飛び出しそうになる。肩を押して光一を退けるか、自分の声を抑えるかのどっちかと考えて、俺は結局光一の肩から手を離し、自分の口を強く塞いだ。 つっかえ棒がなくなった光一は、更に下着を下ろしてきて、もっと深くと含んでくる。吸い付きながら引かれると、ジュルと音がして、頭の芯が熱くなった。 掛かる息が熱く、咥えられた中がもっと熱い。ほんの先端の部分を数回口で扱かれただけで、俺のソレは現金にも力を擡げ、光一の口の中で育っていった。 「ん、……ぅ、ふっ……」 声を殺し、辛うじて鼻から息を吐く。夢中になっている光一にはテクニックなんてものはあったもんじゃなく、強く吸い付いてきた拍子に歯が当たって、痛みが走る。先輩と付き合っていたときだって、こんなことをされたことがなかった俺は、そんな刺激にも単純に反応して、ますます固くなっていき、ヒクヒクとそれ自身が跳ねてしまうのを止めようもなかった。 下着がさらに下ろされ、全部が露わにされる。シャツは着たまま、アンダーを胸までたくし上げられ、ズボンを履いたまま下着だけズリ下ろされて中のモノを光一に咥えられている。 目隠しをされているからその光景を見ずにすんでいるのかよかったのか悪かったのか。とにかく神経がそこだけに集中して、しかもすでに今止められたら困るところまで刺激されてしまっている。 上手いか下手かって聞かれたら、絶対にヘタクソなんだと思う。強弱も何もなく、ただただ咥えられて扱かれる行為に、それでも最高に感じてしまって、どうにもならない。声を抑えるのに必死で、口に当てられた手を離すこともできず、ただただ光一のやりたい放題にされていた。 「……ぁ、っ……っ」 どんな体勢になってやっているのかは見えないが、光一は俺の足の間に顔を埋めて、今度は深いところまで呑み込んできた。喉奥まで咥え込んだまま、舌で茎を撫でられる。熱くて柔らかくて、頭が痺れるくらいに……気持ちがいい。 舌を絡ませながら光一が顔を引き、また呑み込んできた。繰り返されるそれがだんだんと速さを増してきて、そんな初めての刺激に簡単に持っていかれそうになった。 「待っ……こうい……ち、ちょ、ちょ……ぁ、まずい、出っ……」 変な声が出そうになるのを必死に堪えながら、光一に訴えるが、聞いてもらえない。 「やめ……っ、も……っ、あっ……」 一番深いところまで呑み込まれ、強い力で吸われると、声も出せなくなり、背中が反った。 頭が壁に擦りつけられ、痛いと感じる暇もない。促すように光一の舌が蠢き、もう一度強く吸われた瞬間、タオルに覆われた目の前が真っ白になり、体が硬直した。 「……は、あ、……っ、……」 大きな溜息と共に、光一の中の俺が弾ける。その瞬間はもうなにも考えることができずに、ただただ解放の感覚に浸り、腰を浮かし、光一の中に押し込んでいた。 口の中にぶちまけられた光一は、それでも俺から離れない。力を失っているソレを、尚も悪戯するようにしつこくしゃぶっていた。 「……おい。もう止めろって。離せってば」 弱い声で俺が言うと、光一がようやく離れ、体を起こす気配がした。俺の足の間に座ったまま体だけを伸ばしている様子で、やがてガサゴソと音が聞こえたと思ったら、出されたままの俺の中心を拭いてきた。 なんかもうどうでもよくなって、光一にされるままに後始末を任せていた。この先どうしたらいいんだろうと、壁に凭れたままぼんやりと考える。 ふいにふわっと体を抱かれた。最初んときみたいに、光一が俺を抱き込んでくる。目隠しをされたまま、下半身も下着が下げられたまま、光一に抱かれていた。 俺を包んでいた腕がゆっくりと動き、頭を抱えられる。それからゆっくりと、押し倒された。 「おい」 「ごめん。もうちょっとだけ。……ごめん」 耳元で小さな声が聞こえ、俺の頭を抱えたまま、下の方でカチャカチャと音がした。 剥き出しになったままの俺の足の間に、熱くて固いものが差し込まれる。 「すぐ……。ちょっとだけ我慢して」 また声が聞こえ、差し込まれたそれがゆっくりと抜き差しされた。腿にあたる光一のそれは、初めからとても固く、熱くて、濡れていた。 耳元でふ、ふ、と息の音がする。片方の手で俺の頭を抱え、光一が俺の腿を使って達しようとしている。謝って、あと少しだけ我慢してと言った以外、やっぱり声は出さない。別に相手が誰だかなんて最初から分かっていることなのに、光一は律儀に声を殺し、約束を守ろうとしているのが、可笑しい。人にこんだけのことをして、フェラまでやってのけ、今は人の体を使っている。それなのに、声だけは我慢するっていうのが、本当に馬鹿臭くて滑稽で、なんかこいつらしいなんて思った。 忙しく体を揺らしながら、それでも俺に全体重を掛けないようにと気を使っているのか、苦しさは感じない。相変わらず息の音だけが激しく聞こえてきて、どんな顔をしているのかという好奇心が擡げてきた。 光一に体を貸し、いいように揺らされながら、ずっと目を覆っていたタオルを外した。 目の前に光一の顔があった。 口を半開きにして、眉は下がり、目は心なしか潤んでいるように見える。情けないくらいに歪みきり、今にも泣きそうな顔をして、光一が俺の前で揺れていた。 「……あ」 目が合った光一は、自分の顔を隠すようにして深く俯き、だけど体を揺らすのを止めなかった。光一もさっきの俺と同じに、すでに止められないんだと思った。 タオルを取り、目が合っているのに、光一は頑なに口を閉じ、声を殺そうとしている。もうバレてんのに、馬鹿だなと思い、胸に付きそうなほどに俯いている顔に手を伸ばして、引き寄せた。 床に両手を付いていた光一は、俺に引っ張られて体を倒してきた。すぐ目の前まできたところで、ピタリと止まったから、俺のほうから顔を持ち上げて、そこにある唇に、自分のそれを押しつけた。 「ふ……っ」 驚いたように目を見開いている光一の頭を掴み、強く引込みながら、もう一度押しつける。俺に引っ張られるようにして光一の体が沈み、完全に上に乗っかってきた。 逃げていかないように光一の頭を掴み、顔を倒して深く合わせる。半開きの唇を舌でこじ開け、中へと侵入した。 体を揺らしたまま、光一が応えてくる。舌先が触れ合うと、噛みつくように被さってきて、頬がへこむほどに強く吸われた。 滅茶苦茶に吸い付いてくる光一を迎えながら、こいつ、キスすんのも俺が初めてなんだろうなと、そんなことを考える。だいたい順番がおかしいと思う。目隠しした上にフェラまでやっておいて、キスが最後っていうのが、マジでおかしい。 「……エイジ、……エイジ……」 唇を貪りながら、光一が俺の名前を呼ぶ。息が荒くなってきて、腿のあいだを行き来する動きも激しくなってきた。 「あ、……ぁ、…ジ、エイジ……っ」 苦しくなったのか、顔をずらした光一が、俺の耳元に顔を寄せてきた。はあ、はぁ、と息が耳に掛かる。呻くような音がし、次の瞬間、もの凄い力で抱き締めてきた。キュゥ……、と犬が鳴くみたいな情けない声がして、光一が止まった。差し込まれていた足の間が温かい。 出し切った光一はそのまま動かず、上にある体がずっしりと重い。 「……重い」 のし掛かっている体から逃れようと藻掻いていると、光一が「うぅううぅ」と、呻き声を出した。 「ちょ、どいて」 「これはもう……こんなことして、俺は……もう」 暴走して滅茶苦茶にしてしまったことを後悔しているのかと思い、まあ気にすんなとその背中をポンポンと叩いてやった。 「エイジが……エイジ」 「まあ、いいよ。気にすんな」 「キスしてきた! エイジのほうからっ、キスッ! ぐいって、おおおおおおおれ、してくれって、おおお俺の顔掴んで! お願い、してくれって!」 「言ってねえぞっ! どこでどんな夢をみたんだよ、てめえはよ! つうかおまえ第一声がそれかよ! 言うこと違うだろうが」 引っぱたいても怒鳴っても、光一はもはや俺の言うことが聞こえていなかった。「感激だ!」「大事にする!」などとほざいて、また俺に突っ込まれ、結局たった今起こったことなどすっ飛ばして、ふたりで課題をやっていたときと、なんら変わらない空気が完全に戻り、俺の逡巡だとか、この先どうしたら……なんていう悩みはまったく、全然、微塵も関係なかったってことだった。 |
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