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エイジ My Love
6

 高校生活というものは、気楽で自由なようでいて、けっこう制約が多い。保護者の管理下にあって学校に通わなければならないし、遊ぶといっても、時間にも金にも制約はある。生活は親に面倒をみてもらっているのだからそれは当然で、与えられた小遣いの範囲で、たまにアルバイトをして小銭を稼いでも、ちょっとした身の回りのものやCD、ゲームなんかに使えば瞬く間に消えていく程度で、そうそうデカイ遊びにも使っていられない。旅行なんかは到底無理だ。
 彼女ができて、デートしようなんて思っても、結局その辺をうろつくか、カラオケぐらいしか行く所もなくて、ふたりっきりになって盛り上がりたくてもラブホなんかにはそうそう行けるものでもなく、お互いの家に行ったところでそこでも大胆な盛り上がりもできないわけだ。
「……ちょ、コーイチ、おまえ強すぎるって……痛ぇよ」
「ん。ごめん」
 親に挨拶して頭の上からつま先まで観察され、彼女の部屋に通されても、鍵なんか絶対にかけられない。
「ぁ、……ぁ、っ……もぅちょ……っ、と、ゆっくり」
「こうか?」
「ん……」
 いつ部屋のドアが開けられるか分からない状態で、欲望の赴くままに行動する勇気はない。学校でも外に出掛けても、家の中でも始終人の目があって、そんな中で本懐を遂げようとするのは至難の業だ。
「……ん、ぁ……あ」
「ここか?」
「ちょ、そこばっかり、っ……やめろって……」
「可愛い、エイジ」
「うるせ。しゃべんな。黙って集中してろ」
「えー、集中したらすぐイっちゃいそうだもん」
「イケばいいだろ」
「いやだ」
 その点、相手が男で、それも入学当時からずっと連んでいる友だちだったりすると、親も関心を示さず、部屋に籠もりっきりで鍵を掛けようが、ずっと出てこなくても、何も心配することもなく、どんな良からぬことをしていようと、どうせエロ本やそういう類のビデオでも持ち込んでいるんだろうと高を括り、男子高校生だ、それくらいは健全なもんだと安心し、まあその辺の予測は当たっているわけで、それがどこら辺までエスカレートしているかということには考えが及ばないわけである。
「ん、ん、んっ……ぅ、ぁぁ、……っ」
「こうされんの好き、な……」
「ばか、だから、ぁ……やめ、そこばっかり……」
 その上、相手が彼女だとそこへ持っていくのにちょっと機嫌を伺ったり、そういう空気に持っていったりと気を遣わなければいけなくて、また、時間がないからといって、じゃあパンツだけ脱いでくださいあとはこっちでやりますから、と言うわけにもいかない。そこには順番とかその気にさせるアイテムとか、そういうのに時間が掛かって意外と面倒臭い……なんて本人に言ったら絶対に引っぱたかれてお終いになってしまうのが、また面倒だったりして。
 男の場合はそこ一点集中で全然いいわけで、雰囲気を作って恥ずかしがるのを宥めたりして、そういうわざとらしい演技に乗った振りをしたりして。そこでやっと押し倒して前戯して気持ちよくさせて濡らして……とかいう過程をすっ飛ばしても頂上にいけるわけで、服を着たままだろうが立ったままだろうが、いつでも発射に向かえるのがまた便利だったりする。
「あ、あ、あ……」
「エイジ、手ぇ離していいよ。こっち、ほら」
「ん」
「つかまって……一緒に」
 言われたとおりに手を離し、光一の首に両腕を回し、つかまる。体を乗り出し、胡座をかいている光一の上に膝立ちをするようにして跨り、下半身を密着させた。
「あぁ、……ん、ん……ふ、ぁ」
 俺に握られていたソレを、俺のと一緒に両手に包んだ光一が、合わさった二本を一緒に擦り合わせ、激しく上下させていく。
「んんん、ん、んーーーぅ、……っ、は……」
 光一の手の動きに合わせて密着させた下半身を前後させる。肩口にある光一の口からも激しい息が漏れ、俺の息も上がっていった。
「……イク?」
「ん……ぅん、……っん」
「俺も……」
 水音が溢れ、忙しなく布が擦れる音がする。初めは声なんか出すもんかと頑張っていたのもいつのまにか忘れ、大きく息を吐きながら一緒になって声も漏れる。そこは男の沽券に関わるので身も世もなく喘ぐっていうのは無理だが、俺が声を出すと光一の動きが一層熱を増すのが分かっているから、敢えてその辺は我慢しないことにした。
 俺の肩口に顔を埋めた光一も、相変わらず犬みたいな音を出している。最後の最後に、キュゥ……ッ、って鳴るのが合図で、それを聞く度に、何となく可笑しくて、俺は笑ってしまうのだ。
 お互いにほぼ同時に達し、くっついたままゆっくりと揺れていた。やがてすぐ横に用意されていたティッシュの箱を引き寄せて、ガサガサと下で音がする。
 光一のめげない性格のためか、腹筋に例えたトレーニングの賜か、何だかんだいって結局押し切られてこんなことになっている。駄目だ、無理だと頑張っていた俺も、一線を越えてしまえばそこはそれ、やりたい盛りの高校生なので、気持ちのいいことには弱く、そんな機会が簡単に得られるとなれば、やぶさかではない気分なのである。
 光一との友人関係は学校でも別段変わらずに続き、他の連中と一緒になって騒ぐのも遊ぶのも変わらない。どこでもふたりは連んでいて、誰に咎められることもなく、たまにこうしてお互いの部屋を行き来するのも変わらず、そしてそこにちょっと気持ちのいいことが加わった、みたいな感じだった。
 学校帰りに俺は漫画を買い、光一はDVDを借り、じゃあ俺の家で一緒に観ようかということになり、ここにこうしている。並んで観ているうちに光一がちょっかいをかけてきて、ほんの少し戯れて、終わればまた続きを観て、じゃあまた明日と言って帰っていくのも日常のうちのひとつだ。
 何も変わらない。不思議なほどに。
 俺から離れてベッドから降りた光一は、途中で観るのを止めたまま進んでいたDVDを再生している。「この辺だっけ?」と聞いてくるのに、俺はベッドの上で横になったまま適当な返事をしていた。
「来週からの試験期間、どうする? また家でやる?」
「うん。でもあれかあ、密室になると、試験勉強どころじゃなくならね? 俺ら」
「それはおまえだけだろ」
「そんなことねーよ? エイジも一緒だよ?」
「なぜ決めつける。じゃあ、図書館?」
「えー」
「えーじゃねえだろ」
「密室がいい」
「話が堂々巡りだな」
 変わらなすぎる。それでいいのか? いや、いいんだろうけど。だいたいこいつから告白されてきたときだって、今までの関係が変わるのが嫌だっていうのが第一で、危惧していたそこは全然変わっていない。それはまあよかったなって思うけど。思うんだけどさあ、じゃあ、告白して、光一はいったい俺とどうしたかったんだろうと思うのだ。
 ……別に、どうしたいとか思わないでもいいんだけど。
「どしたの? エイジ、真剣な顔して」
「いや、別に」
「腹減った?」
「なんでだよ。俺の悩みは腹減ったとか、そんなことしかねえのかよ」
「なんか悩んでんのか?」
「悩んでねえよ!」
「少しは悩めよ。悩みないとか、おめでたいやつだな」
「その言葉を俺はおまえに言いたいね」
 のほほんと笑っている光一とのこんな会話も変わらない。
 例えば、俺に好きな人がいたとして、その子が俺の気持ちを知っていたとする。向こうが自分を好きかどうかっていうのは別として、でも嫌ってはいないことは明白で、そんなふたりが一緒にいれば、そういう空気というか、そんなものが生まれるだろうと思うんだ。
 もっとこう、ふわふわした感じというか、ニヤつく感じとか、こう……ギュッと鳩尾が絞られるような感覚っていうんだろうか。
 側にいたいとか、顔が見たいとか、声が聞きたいとか。手を繋いだら次はキスがしたいとか、その先にもいきたいとか。
 時間がなくても、場所に苦労しても、親の目をかいくぐってでも、何とかしたいと思うだろう。煩雑な手順や、そういうものを乗り越えても、先に、もっと先へと進みたいと思うんじゃないのか。
「じゃあ俺、そろそろ帰るわ」
「ああ。うん」
 気持ちのいいことに誘われるのはやぶさかでない。手間も時間も掛からないのは便利だ、確かに。
 だけど、今俺と光一がやっていることって、そういうのとは違うんじゃないかなと、考える。
「明日、数学の課題提出日だっけ? エイジ、見せてな」
「おまえ、最初から写す気満々かよ。少しは自分で努力しろ」
 こいつは俺と、どうなりたかったんだろうと、思うのだ。
「あのさあ」
「なに? 俺が帰るのが寂しい?」
「ちげーよ。少しは真面目に聞けよ。そして抱きついてくるな。鬱陶しいな」
「なんだよ。正直になれよ、エイジ」
「正直に言ってる。だから、はーなーれーろーって」
 ベッドに乗り上げて近づいてきた顔を引き離し、俺の上に乗っている光一の顔をまじまじと見つめてみる。
「……エイジ。その目は……誘ってる? もっかいやる? しょうがないなあ」
「そのポジティブ思考はどこからくるんだよ。つかなんで上から目線? 重いって!」
 どこまでいってもこうしてふざける。なんなんだよ、本当。初めてんとき、あんなに情けない顔をして、必死んなってたくせに。
「いてっ」
 頭を引っぱたいて体を引き剥がす。叩かれた頭を掻きながら、俺の隣、ベッドの上で光一が胡座をかいた。
「なあ、おまえさあ」
「んー?」
「腹筋と同じだっつただろ? そんでおまえのその腹筋回数ってのは、最終的には何回達成が目標なんだ?」
 ほんの好奇心。ただ聞いてみたかっただけだ。
「おまえさ、コーイチ。セックスしたことねえ。してみたいって言ってたじゃん」
「あー」
 こいつがどこまで本気で俺のことを好き、好きって言っていたのか。
「おまえはそれを俺としたいわけ?」
 もちろんする気はない。ただ、こいつがどこまでを望んでいるのかを確かめ、その答えによっちゃあ俺も対処しなければならない、とか、そんなことを思って聞いてみた。
 頭を掻きながら、光一がこっちを向いた。口はポカンと開いたまま、バカみたいな面をして俺を見ている。
「おまえは俺とセックスしたいの? どうなの?」
 したいって言われたら、全力で拒否らなければならない。今までしてきたみたいなことは、まあ、俺の不徳の致すところというか、流されてこうなってしまっているわけだが、それ以上はやっぱりちょっとな、って、そんな感じで。
「……あー、それはぁ」
 光一の視線が天井に向く。
「そこまでは……なあ、やっぱりなあ」
 言葉を選ぶように、天井を向いたままの光一が言った。
「勘弁だよな」
「そうなの?」
「だってさあ。なあ」
 同意を求めるように光一がこっちに向けて笑いかけてきた。何が「だって」なのか、「なあ」って言われても分からないけど。とにかく俺とのセックスは勘弁らしかった。
「ふうん」
「だろ?」
「まあ、そうだな。勘弁だよな」
「だろぉ?」
 あはははと笑っている光一から目を逸らし、俺も天井を見た。
 はあ、そうですか。勘弁なんですか。だよな。俺も勘弁だ。これ以上光一が迫ってくることはないらしい。それはよかった。
「ふうん。そうか」
「そうそう。勘弁、勘弁。俺もそこまでは考えてないって。な!」
 なんかむかついた。






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