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エイジ My Love
7


 教室前の廊下に呼び出されている。今日は光一じゃなくて、俺が。
 用件は、夏休み前にある受験用選択ゼミで、俺がどの教科を受けるのかということだった。
 各自が選択した授業はクラスをシャッフルして教室を移動して受けるから、他クラスの生徒とも当然一緒になる。希望授業は新学期になってすぐに提出させられていて、俺がどの授業を受けるのかを聞きたいらしい。
 なんでそんなことが知りたいの? なんてことは俺も聞かず、まあ普通に教えたんだけど。
 俺を呼び出した二宮は文系私大コース選択で、一度も同じクラスになったことはない。合同授業でも一緒じゃなかったし、委員がダブったこともなく、接点は皆無だ。
 二宮から少し離れた後ろのほうで、女子が二人、手を繋いでこっちをチラチラ見ている。さりげなさを装っているふうなのが逆にあからさまで、居心地が悪い。後で「どうだった?」なんて事後報告を聞き、騒ぐんだろうな、なんて思うと、こちらとしてもあまり悪印象を持たれたくない、なんていうさもしい根性もあり、対応に苦慮するわけだ。
 結局二宮と俺の選択授業を照らし合わせ、共通でとっている授業はなかった。
「そうなんだ。そうだよね」と、予想していたとおりというか、大して落胆した様子も見せない二宮はそう言って、それからこう言った。
「じゃあ、今度の試験のさ、勉強、よかったら一緒にしない?」
「……あー」
 話の本題はそっちだったわけね。選択授業の件はきっかけだったわけね。
「二人でっていうんじゃなくて、何人かで。放課後図書館とか……どっかで集まってさ」
 図書館とかの次の「……どっか」ってどこ? 
 とは俺も聞かず、んー。と頭をバリバリ掻く振りをしながら視線を遠くに飛ばした。二宮の後ろに待機している女子二人がまだ手を取り合って笑っている。
「いつも一緒にいる彼とか。他にも何人か誘ってさ」
「あー、うーん。そうだなあ……」
 こういう場合、返答が非常にしにくい。「好きだ。付き合ってくれ」っていうなら答えようがあるけど、こういう誘いはとても気を遣う。向こう側の真意がどこまでなのかが計れないからだ。
 向こうがそこはかとなくこっちが気になっていて、「まずはお友だちから始めない?」程度なら、こっちもまあ気軽に応じてもいいような気がするし、そこで「いや、俺は……」って断るほうが自意識過剰となってしまう。
 別に何人かで勉強会をするぐらいならどうってことないことで、そこから親しくなって、お互い気が合うってことが分かればまた進展もあり得るわけで、たぶん向こうもそれくらいの気持ちなんじゃないかなと推し量る。告られてもいないのに 「俺、好きな子いるから」なんて断るのは馬鹿だし格好悪い。つーか、好きな子なんかいないわけだけれども。
 ただなんというか、正直いって今はそういうのが面倒臭いんだよなあと、頭に手をやったまま俺は返事に困っていた。
 だいたい集団で勉強会なんかやったって効率がよくなることは絶対にないし、たぶん勉強なんかいっこもしないだろうと思う。まあ、学校生活においてのコミュニケーションの一環だし、勉強なんか家に帰ってからひとりでやればいい話だから、目的は成績を上げるためではないから、そこも問題ない。
 ただ、面倒なのだ。
 そして断るのもまた……面倒なんだよな。
「来週から短縮授業始まるし、部活もないでしょ?」
「あー、うん」
 ここで俺の優柔不断が始まってしまう。
「エイジくんがどうしても嫌だっていうなら別に無理にとは言わないけど……」
 出たっ! 俯き上目遣い。そして後ろにいる女子が恐い。
「あー、いや、別に嫌っていうんじゃ……。そうだな。まあ……うん、いいんじゃないの?」
 ……これだよ。
 押しに弱いんだよ。悪者になりたくないんだよ。来るもの拒まずなんだよ、俺ってば。
 結局来週初め、短縮授業の始まる初日に図書館で勉強会をすることになった。
「じゃあ、来週」
 もの凄い笑顔で二宮はそう言って、走っていった。案の上廊下の向こうで待機していた友だちと合流して手を取り合っている。三人で輪になって回っている。あーあ、こっちから見えてますけど、喜んでいるその光景が。
「しょうがねえか」
 承諾してすぐさま面倒臭いと後悔するが、輪になって回っているところに駆け寄って
やっぱり止めると言うほうが面倒なので、仕方なく勉強会に付き合ってくれそうなメンツを頭の中でピックアップする俺だった。






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